コーチングのセッション中、次のような経験はありませんか?クライアントに意図を持って質問を投げかけたにも関わらず、相手は少し沈黙し、眉間にしわを寄せ、「うーん…」と考え込んでしまう。時には「そんなこと言われても…」といった戸惑いの声が返ってくることも。「もしかして、今の質問は良くなかったかな?」「クライアントを困らせてしまっただろうか?」そんな風に、コーチであるあなたが不安を感じてしまうこともあるかもしれません。しかし、実はこのクライアントの「戸惑い」こそが、コーチングのセッションが次の段階へ進むための重要なサインなのです。今回は、クライアントが質問に戸惑いを見せたときに、コーチとしてどのように対応すれば良いのか、その具体的な方法について詳しく解説していきます。この戸惑いを乗り越えることで、クライアントはきっと、自分一人では到達できなかった新しい思考の世界の扉を開くことができるはずです。目次1. コーチングでクライアントが戸惑う質問とは?では、具体的にどのような質問がクライアントの戸惑いを引き出すのでしょうか。それは、「思考の枠を超える」、つまり普段クライアントが意識的に考えていないような、想像力を掻き立てる問いかけです。例えば、このような質問が挙げられます。「仮に何の制限もないとしたら、あなたはどうしますか?」「もし、望む状態がすべて実現したとしたら、最初にしたいことはどんなことですか?」コーチングの世界では、こうした問いを「ビヨンド(beyond)の問い」と呼ぶことがあります。文字通り、クライアントの現在の思考や状況の「向こう側」へと意識を向けることを促す質問です。中には、「仮に奇跡が起きたとしたら、何が変わっていますか?」という特徴的な言い回しで始まる「ミラクル・クエスチョン(solution-focused approach)」も、このビヨンドの問いの一例です。こうした質問を受けると、クライアントは普段考えたことのないことを想像することになります。その結果、多くの人は「そんなこと言われても…」「ええ?希望が実現したらですか?」など、軽い戸惑いを見せることがあるのです。しかし、これはある意味、とてもコーチングらしいやりとりだと言えます。なぜなら、コーチングとは、クライアントが普段考えていないような、自分一人では行けないような、新しい思考の世界に扉を開くことを目的の一つとするからです。人間は、95%は昨日と同じことを考えていると言われています。それが悪いことではありません。ただ、コーチングの場では、同じことではなく、違うことに思考を向けることで、新しい気づきや可能性が生まれることがあります。この戸惑いは、まさにその「新しい思考への入り口」に立っているサインなのです。2. クライアントが戸惑ったときの具体的な対応クライアントが「ビヨンドの問い」に戸惑いを見せたとき、コーチとして最も大切なのは、焦らず、そして少しだけ「粘る」ことです。考えたことがないことを問われて戸惑うのは当然の反応です。ここで、クライアントの戸惑いにコーチ自身が臆してしまい、「ああ、こんな質問をしちゃダメだったかな」と焦って質問を言い換えてしまうと、せっかく開かれそうになった新しい思考の扉は、閉ざされたままになってしまいます。特に、私たち日本人には「謙遜の文化」が深く根付いています。何かを言われたときに、「いえいえ、そんな…」「それはちょっと…」などと、控えめな発想や発言をする人が多いものです。これもまた、悪いことではありません。しかし、コーチングの場でここで立ち止まってしまうと、やはりビヨンドの問いが持つ本来の効果、つまりクライアントが新しい可能性に目を向ける機会を逃してしまうことになります。このような戸惑いや謙遜を一旦受け止めつつも、「もう少しだけ、一緒に考えてみませんか?」と優しく促してみましょう。「戸惑うかもしれませんが、少しだけ一緒に考えてみませんか?」「ご自身では、その未来が実現することを望んでいらっしゃるのですよね。だとしたら、よかったらそのお話を聞かせてください。」表現は様々ですが、クライアントの奥底にある、新しい未来を築いていく力を信じて、少し立ち止まること、そして少し粘ることが、良いコーチのあり方だと私は考えています。クライアントには、自分の可能性を拓く力がある。その扉を一緒にノックするような関わり方こそが、コーチとして求められる姿勢です。ぜひ、ビヨンドの問いと共に「粘りの問い」を実践し、クライアントの新たな一歩をサポートしていきましょう。3. まとめ:クライアントの可能性を信じ、共に扉を開くクライアントが質問に戸惑いを見せるのは、決して悪いことではありません。むしろそれは、彼らが普段の思考の枠を超え、新しい可能性に気づこうとしているサインだと捉えましょう。コーチとして私たちがなすべきことは、その戸惑いを恐れず、クライアントの内に秘められた力を信じ、「もう少しだけ一緒に考えてみませんか?」と優しく、そして粘り強く問いかけることです。「ビヨンドの問い」によって新しい思考の扉を開き、その扉をクライアントと共にノックし続ける。このプロセスこそが、クライアントが自分自身では辿り着けなかった未来を築き、新たな一歩を踏み出すための強力なサポートとなるはずです。コーチの「粘り強さ」と「信じる心」が、クライアントの未来を大きく変える原動力になることを忘れないでください。当カレッジの次期ベーシッククラスの開講(2025年9月スタート)にあたり、プログラム詳細を案内する無料説明会も実施中です。説明会参加者様だけの受講費用1万円割引特典もご用意しています。お気軽にご参加いただければ幸いです。説明会はこちらからお申込みいただけます。最終更新日 2025年6月11日監修者プロフィール中原阿里:ICF国際コーチング連盟プロフェッショナルサーティファイドコーチ(PCC)、弁護士、公認心理師、上級心理カウンセラー、ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ代表、CLARIS法律事務所代表弁護士、法務博士、ウェルビーイング経営アドバイザー。奈良女子大学英文科英語英文学科卒業、関西学院大学大学院司法研究科修了、米国イェール大学Science of Well-Being Course修了。弁護士として活動しつつ、2019年ウェルビーイングのためのアカデミックなコーチングスクール「ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジーRussell Well-being Coaching Collegeー」を設立。創立以来講師を務め多くのコーチを育成しながら、上場企業からNPO法人、大学、裁判所、弁護士会まで幅広い対象にコーチング研修を提供。現役の弁護士かつプロコーチとしても多数のクライアントを支援する。著書に「弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル」(日本加除出版)など。■関連記事・コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説・ー2025年版ー【プロコーチが選ぶ】コーチングの学びにおすすめ本7冊と効果的な学び方とは・【2025年】国際コーチング資格取得について:特徴や選び方をまとめて解説■人気記事・コーチングの効果的な勉強法は?学び方やおすすめのスクールの選び方について・【GROWモデルとは?】コーチングの質問の型とすぐに使える具体的な質問例もあわせて紹介・「コーチングを学ぶ最適な方法とは?コーチングの難しさと確実に学ぶ方法をプロコーチが解説:本格的に学びたい方向け