本記事では、コーチングの基本スキル「承認」について解説します。承認とは、相手の存在や努力、成果を認め、肯定する行為で、人を育む上で必要不可欠なスキルです。本記事では、承認の効果や、注意すべきポイントについて、詳細に解説していますのでぜひご覧ください。1. 承認とは?コーチングのスキルコーチングにおける「承認」とは、相手を認める言動を広く指しています。具体的には、相手の存在や努力、成果などを積極的に気づいて認め、言葉にして相手を肯定する行為です。なお承認には、言葉でのやりとりだけではなく、笑顔や受容的な態度を示すなどのノンバーバルメッセージによる承認も含まれます。また、承認と聞くと、「褒める」行為をイメージされるかもしれませんが、承認は単なる褒め言葉にとどまりません。例えば、「お会いできてうれしいです」「最近、調子はどうですか」など、気軽な挨拶や、声かけ、相手に関心を示す会話も広く承認に含まれるのです。承認は、相手の自己肯定感を高め、お互いの間に安心感や信頼感を醸成するための重要なコミュニケーション方法です。効果的な承認ができるようになると、相手は、それをきっかけとして自らの成長に意欲的に取り組むきっかけとなります。そのため、承認スキルを習得すれば、様々な場面で活用することができます。例えば、ビジネスの場面では、上司が部下のやる気や自信を引き出したり、組織のモチベーション・パフォーマンスがあがるなどの効果があります。コーチングの意味やポイントについては下記の記事で詳しく解説しています。コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説2. コーチングの3つの承認対象承認の中には、3つの種類があります。何を承認するのか、という承認対象で分けた3つの種類で、「行動に対する承認」、「結果に対する承認」、「存在に対する承認」があります。これらの承認対象の違いを理解して、適切な場面で使いわけるとで、より効果を実感できるはずです。では、それぞれの承認の違いや具体的な声がけについて、詳しく紹介します。1. 行動(過程)承認行動承認とは、目標に向かう過程や試行錯誤をとる行動、日々の努力を認めるアプローチです。人は、どうしても結果や成果に目がいきがちです。しかし、結果が出る前に、人はいろいろな行動を起こして努力する過程があります。結果だけでなく、その取り組みや変化の途中で見せる成長や工夫、改善の行動努力に対して、承認することが行動承認なのです。行動承認によって、承認を受けた側は、自身の行動や変化、日々の努力に気づいてもらっているという認識が得られるはずです。具体例「いつもコツコツ頑張っているのを見ているよ。」「新しいアイディアを試してみる姿勢が良いね。」「確実に前進しているね。」2. 結果承認結果承認とは、ある目標を達成したときや、何らかの成果があったときに、その結果に対して承認をすることです。例えば、プロジェクトや業務の成功について明確な承認の言葉を伝えることが該当します。一般的に行われている承認は、結果承認が多いと考えられます。良い成果を出したときに、周りから承認されることは、次のやる気にもつながります。成果を見逃さずしっかりと承認するのは、上司やマネージャーの重要な役割と言えるでしょう。具体例「今回の成果は、君の努力の証だ!」「優勝おめでとう」「結果を出して、チームに貢献してくれてありがとう。」3. 存在承認存在承認とは、行動や成果に関係なく、「個人としての存在そのもの」を認め、尊重する姿勢です。個々の個性や価値観、存在意義を肯定することで、本人の安心感や信頼感を育み、自己肯定感の向上に寄与します。人はいつでも成果を上げられるわけではありません。結果承認に至らないときでも、互いに支援し合っていることを示すために、存在承認を送り続けることが、相手のパフォーマンスやエンゲージメントを上げるためには欠かせません。具体例「あなたがいてくれると、みんなが安心して仕事に取り組めるよ。」「チームに良い影響を与えているね。」「あなたは私たちの大事な仲間です。」3. 承認がもたらす3つの効果承認がもたらす主な効果は、下記の通りです。・相手のやる気や安心を引き出す・自己肯定感を向上させる・相手の自己開示を促進させるこれらそれぞれの効果がどのように実現されるのか、具体的な事例とともに詳しくみていきましょう。1. 相手のやる気や安心を引き出す承認には、日々の努力や結果に対して肯定的なフィードバックを行うことで、相手が自分の能力や努力を実感しやすいといったメリットがあります。承認的な言葉がけがあれば、「自分は信頼されている」という気持ちや「もっと貢献したい」という意欲が高まります。その結果、ミスを恐れず新たな挑戦に臨む安心感を生みだしたり、自然とやる気を引き出す効果が考えられます。2. 自己肯定感を向上させる承認によって、相手の自己肯定感を向上させる効果もあります。特に、存在承認にはその働きが強くあります。なぜなら、行動承認と結果承認はいわゆる、人のDoingに対する働きかけである一方で、存在承認はBeingに対する働きかけで、より深い肯定になるからです。行動や結果に基づいた承認は、一時的なモチベーション向上にはつながりますが、持続的な自己肯定感の土台にはなりにくい傾向があります。一方で、存在承認は、相手の内面や存在そのものに目を向け、ありのままの価値を認めるアプローチなので、3つの承認の中で一番大事ともいえます。人は、集団の中にいても、どこか不安を感じている生き物です。「自分がここに居ていいのだろうか?」「無価値だと思われていないだろうか?」といった不安は誰しもがどこかで感じている可能性があるものです。そうした思いが強くなると、不安になり、自信が無くなって、やる気やチャレンジ精神も衰えていきがちです。存在承認を日常的に取り入れることで、相手は「自分はここにいていい」「自分には価値がある」と感じ、そこから「自分なりに頑張っていこう」「何か貢献できるようにやってみよう」といった内発的な意欲を持って成長し続けることができるのです。そのため、存在承認を意識的に活用することで、相手の心の底からの信頼と成長を促し、より豊かな人間関係と成長促進につながると考えられます。3. 相手の自己開示を促進させる承認の実践は、相手が自分の考えや感情を率直に表現できる安全な環境作りにもつながります。いわゆる心理的安全性の醸成ともいえます。人には不安や挫折がつきものですが、そうした点も含めて安心して内面を開示できることで、部下が上司に相談しやすくなったり、新たなビジネスアイデアや解決策が生まれるなど、コミュニケーションの質が向上していきます。また、ミスや失敗が早めに共有されることで、組織全体のリスクマネジメントにもつながっていきます。4. 承認をするときの注意点・一方的なコミュニケーションにならないこと承認は相手の努力や成果、存在を認めるための大切なスキルですが、一方的に伝えるだけでは効果が薄れてしまいます。単に言葉で表現するだけでなく、しっかりと相手が承認を受け取れているか、言葉のキャッチボールができるているかを意識しましょう。つまり、言いっぱなしにならずに、相手に受け取れるような形で届けることが大切です。・適切なタイミングで行う承認の効果を最大限に引き出すためには、タイミングもとても重要です。例えば、成果が出た直後にすぐにフィードバックを行うと、相手はその時の気持ちや達成感をより鮮明に感じ取ることができます。一方で、時間が経ちすぎると、達成した感覚が薄れ、承認のインパクトが弱まってしまいます。また、状況に応じた適切なタイミングでの承認は、相手に対して「あなたの努力や成果を見逃していない」という信頼感を与え、次の挑戦への意欲を引き出す効果も期待できます。タイミングを見極めることで、承認が単なる形式的なものではなく、相手の心に響くメッセージとなるのです。・別の対象と比べないこと承認を行う際に、他人と比較して「○○さんよりもよくできた」という評価的な文言は、時として、相手に余計なプレッシャーや劣等感を与える可能性があります。誰かとの比較は、場合によっては相手のやる気を引き出す可能性もありますが、長期的にみると、個々の成長や努力を正当に判断する妨げになり、その人固有の魅力や価値から焦点がずれてしまうリスクもあります。誰しもその人だけの可能性や優れた資質があります。承認はあくまでその人自身の進歩や成果に焦点を当て、個々の良さを引き出すことに徹することが大切なのです。5.質問と傾聴とのかけあわせ質問スキルを活かす承認と質問を組み合わせることで、相手の内面にある想いや課題を引き出す効果が高まります。コーチングでは、質問を中心としたコミュニケーションを行いますが、その質問と承認をうまく組み合わせることで、より相手の自主性や可能性を引き出せるわけです。具体的には、「いま、どう感じていますか?」や「次はどんな方向性が考えられそう?」などの問いによって、相手は自己省察を深め、未来志向で成長の方向性を見出す機会となります。また、こうした対話は、「自分の気持ちや考え方が尊重されている」という感覚を相手にもたらします。その結果、互いの信頼感が醸成され、チーム全体のマネジメント力向上にも寄与します。質問についてはこちらの記事で詳しく解説しています。【コーチングの質問とは?】質問の具体例をまとめた保存版リスト 避けるべきも紹介傾聴スキルを活かす承認と傾聴も、対人コミュニケーション上、とても相性の良い組み合わせです。承認と傾聴を組み合わせると、相手の話に真摯に耳を傾け、安心感を与える効果が飛躍的に高まるからです。傾聴とは、相手の言葉や感情に寄り添い受け止める聴き方ですが、傾聴と共に適切な承認的フィードバックを行うことで、より深い自己開示が促され、相手の内省も広がっていきます。こうしたコミュニケーションは、まるで肩を組んで共に同じ未来を描いて歩くような関係を作ります。つまり、相互に強固な連帯感を育み、高いマネジメント力や人間関係構築を実現する基盤となります。傾聴スキルについてはこちらの記事で詳しく解説しています。質問の価値を高めるコーチングスキル傾聴とは?NG例もあわせて徹底解説6. まとめ:承認で育む人の成長以上、承認の意味やポイントについて解説してきました。承認はコーチングではもちろん重要なスキルですが、それだけでなく、人間関係構築や企業の人材育成、組織風土の醸成までも影響を与えるる重要なスキルです。今の社会において、リーダーが身に着けるべき技術の一つといえるでしょう。行動承認や結果承認、そして存在承認により、相手のやる気や安心感、自己肯定感が着実に育むことができます。特に存在承認は、成果や行動だけでなく、その人自身の価値を認めるため、深い信頼感と心理的安全性をもたらすものとして、日常的に活用するとマネジメントのレベルが確実に上がっていきます。また、質問や傾聴などの他のコーチングスキルと組み合わせることで、対話の質が向上し、より豊かな人間関係や高いマネジメント力の構築につながります。こうした実践は、個々の潜在能力を最大限に引き出し、チーム全体の成長と発展に大きく寄与するため、日々のコミュニケーションにおいて積極的に取り入れるべき重要なスキルと言えるでしょう。ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジでは、承認や、質問や傾聴などの必須コーチングスキルを身に着けることができます。ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジは、ICF認定スクールとして、ウェルビーイングに基づいた独自の「ウェルビーイングコーチング」を学ぶことができる点が特徴です。理論と実践のバランスを重視して、確実にコーチとしてのスキルを身に着けることができます。詳しいコーチングプログラム内容についてはこちらをご覧ください。著者プロフィール中原阿里:ICF国際コーチング連盟プロフェッショナルサーティファイドコーチ(PCC)、弁護士、公認心理師、上級心理カウンセラー、ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ代表、CLARIS法律事務所代表弁護士、法務博士。奈良女子大学英文科英語英文学科卒業、関西学院大学大学院司法研究科修了、米国イェール大学Science of Well-Being Course修了。弁護士として活動しつつ、2019年ウェルビーイングのためのアカデミックなコーチングスクール「ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ」を設立。創立以来講師を務め多くのコーチを育成しながら、上場企業からNPO法人、大学、裁判所まで幅広い対象にコーチング研修を提供。現役の弁護士かつプロコーチとしても多数のクライアントを支援する。著書に「弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル」(日本加除出版)など。最終更新日 2025年3月7日■関連記事・コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説・【コーチングの質問とは?】質問の具体例をまとめた保存版リスト 避けるべきも紹介・質問の価値を高めるコーチングスキル傾聴とは?NG例もあわせて徹底解説・【コーチングの承認とは?】人の成長を促すスキルを3つの効果と注意点をあわせて紹介・コーチングの学びに自己理解が大切な理由とは?重要性と方法を解説・コーチングを学ぶ最適の方法は?自分にあう学習法やスクールの選び方を紹介■人気記事・コーチングの効果的な勉強法は?学び方やおすすめのスクールの選び方について・ー2025年版ー【プロコーチが選ぶ】コーチングの学びにおすすめ本7冊と効果的な学び方とは・メンタリングとコーチングはどう違う?プロコーチが徹底解説・マネジメントに必須のコーチングスキルとは?ー習得のメリットと方法をコーチが解説ー・【GROWモデルとは?】コーチングの質問の型とすぐに使える具体的な質問例もあわせて紹介