コーチングは、コンサルティング、カウンセリング、ティーチングと混同されることがあります。それは、互いに類似する点があるからです。しかし、コーチングは、これらとは異なる点もあり、それぞれの類似点と相違点をその違いをはっきりと理解している人は少ないかもしれません。ここでは、それらについてわかりやすくご説明します。0 コーチングとはコーチングとは、質問を通じて相手自身の持つ力や可能性を引き出し、目指す目標の実現をサポートする関わり方です。対人支援コミュニケーションスキルの一種で、ビジネスの場でもメンバーや部下の能力を伸ばす手段として、近年注目を集めています。また、1オン1ミーティングが普及する中で、コーチングスキルの重要性が増しています。1オン1ミーティングでは、相手の状態を把握しつつ、目標達成や問題解決を支援することが求められるからです。 では、コーチングとコンサルティングなど他の関わり方に、どんなちがいがあるのでしょうか。1 コンサルティングとコーチング(1)コンサルティングとコーチングの共通点とはコンサルティングとコーチングには、多くの共通点があります。例えば、相手をサポートすることを目的としたコミュニケーションであること1+1=2のような明確な答えが存在しない問題に取り組むこと思考や行動を変革させることで、現状をより良くすることを目指すことクライアント自身が望んでいるゴールに向かって進むことなどが挙げられます。クライアントが成長し、成功するための支援として機能する点で共通します。(2)コーチングとコンサルティングの違いとはコーチングとコンサルティングには明確な違いも存在します。大きな違いは「コンサルティングにはクライアントの課題に対する専門的知識が求められる」点です。コンサルタントはクライアントから課題の解決を依頼され、依頼に沿って戦略を提案します。豊富な知験に基づいたアドバイスを提供するなど、コンサルタントは課題に対して深い理解と専門性を持つことが不可欠です。一方で、コーチングでは、クライアントの課題に対して積極的に答えや方法論を伝えることはありません。コーチングの役割は、クライアント自ら解決方法を見つけられるためのサポートで、解決策を実行するのもクライアント自身です。(3)コンサルティングが有効な場合とはコンサルティングは、クライアントが具体的な課題解決の答えを求める場合に効果的です。専門家の知識や経験に基づいた具体的なアドバイスが欲しい時、自分で考えず、すぐに解決を目指したい場合にも有効なアプローチです。2 コーチングとカウンセリング(1)コーチングとカウンセリングの共通点とはコーチングとカウンセリングは、会話を使って対人的なサポートを行う点で共通します。具体的には、クライアントの状態を改善するために行う1対1の対話形式で進められること質問や対話などでクライアントを支援することなどで類似します。(2)コーチングとカウンセリングの違いとはコーチングとカウンセリングの主な違いは、クライアントの心理状態です。カウンセリングは、精神的にマイナスの状態を正常な状態に戻すことを目的とします。心理的セラピーもこのカテゴリに入ることが多く、悩みが深く抑うつ状態にあるなど、精神的に困難な状況にある人にとって重要な支援手段です。これに対し、コーチングは、精神的に安定していることを前提とし、その上でさらなる成長や自己実現を目指す支援を行います。(3)カウンセリングが有効な場面とは不安が大きいとき、カウンセリングアプローチは効果的です。例えば、仕事や対人関係ストレス、大切な人を失った過去の悲しみなど精神的苦痛を感じる状況では、カウンセリングによる相談が第一選択肢となります。心理的な安心感を与える関わりや、不安を軽減させるアプローチがまずは有効です。(4)カウンセリングに関する注意点とはなお、カウンセリングでは対応が難しい場合もあることに注意が必要です。例えば、精神的な不安が深刻な時や、抑うつ症状が強い場合は、心療内科の受診が必要なことがあります。メンタル不調には薬物療法が効果的なケースも多く、カウンセリングを含め、自分に合った適切な支援方法を慎重に選ぶことが大切です。3 コーチングとティーチング(1)コーチングとティーチングの共通点とはティーチングとコーチングにはいくつか共通点があります。例えば、クライアント本人の成長を助けることクライアントが目指す目標に向かう姿を支援することなどです。どちらも、相手が成長し、望む状態へはばたくことをサポートする点で共通します。(2)コーチングとティーチングの違いとはティーチングの主な特徴は、あらかじめ正解や明確な答えが存在する場合に、それを相手に教えるという点です。例えば、「1+1=?」には「2」という正解があります。この場合、正解である「2」を教え、その理由を説明するのがティーチングです。このプロセスでは、教える側が先生として正確な知識を持っていることが求められます。一方、コーチングでは、最初から決まった「正解」はそもそもありません。クライアントが自分自身で考え、解決策や進むべき道を見つけ出すことが重視されます。コーチは専門知識や正解を提示して渡す役割ではなく、クライアントが自分の中から発見を得る支援をするのが仕事です。また、ティーチングは、教える側と教えられる側の関係が一方通行になりがちです。つまり、教える側が上位に立つことが多いのです。コーチングでは、コーチとクライアントは常に対等で上下関係は存在しません。(3)ティーチングが役に立つ場面とはティーチングは、すでにある知識を伝えたい場合、あらかじめ正解がある事柄をしっかり教えるときに効果的です。例えば、新しい言語を教える、歴史を理解してもらう、社会のルールを伝える、新しい技術を習得してもらう際には、その分野に詳しい人がティーチングの手法で教えることで、早く確実に習得できます。人生に必要な多くの知識を得るため、ティーチングは重要な手法です。(4)ティーチングに関する注意点とはティーチングは、知識を得て、何かを覚えるには効果的ですが、自らの頭で考え、試行錯誤する力が育まれない場合もあります。もちろん、知識は重要ですが、得た知識をどう活用するか、どのような人生を選択するかが、生きる上では重要なことです。 実際、仕事でも人間関係でも、ティーチングだけでは対応できない場面が多々あります。例えば、自分のキャリアに悩んでいる時や、人間関係を改善したい時には、知識を得るだけでは問題解消にはつながらないことが多いでしょう。そのような場合には、自分自身と向き合い、自分の内側にある思考を整理し、確立する力が必要です。4 コーチングのニーズが高まっている理由とメリットとはコーチングは、相手の内側にある潜在的な力や可能性を引き出すかかわりです。つまり、本人がもともと持っている力を高める点、人材を育成する効果が生まれる点に特徴があります。コーチングは、ここ数年で大きく知られるようになり、組織や会社の人材育成の場面でその必要性が高まりました。ここでは、コーチングの具体的なメリットを紹介します。(1)本人に気づきや発見が生まれやすくなる一方的に相手に正解を伝えるティーチングやコンサルティングでは、指導する側の知識や経験、既存の社会の常識などがその前提です。したがって、本人の自由な発想の広がりや気づきの展開は期待しにくいものです。一方、コーチングはクライアントが、セッション中の多様な質問を通じて、それまでと異なる視点で物事を考え始めます。つまりコーチングによって、これまで思い至らなかったような発見や気づきが産まれやすくなります。新しい仕事上のアイデアや対処法などが生み出される可能性もあります。むしろ、そうした新しい気づきやこれまでとは違う視点をもたらしてくれるのが、コーチングのかかわりそのものです。(2)本人の主体性が向上するコンサルティングやティーチングだけでは一方通行な上意下達のコミュニケーションになりがちです。しかし、現代に求められるのは、既存の答えや絶対的な解を出すことではありません。既にある解を探してそれを繰り返すのではなく、自ら、新しい方法やアイデアを生み出す力が求められています。既存のやり方を新しく刷新し、改革していく力とも言えるでしょう。そこには、本人の自主性が何よりも重要です。そして、それは仕事へのやりがいや、組織や企業へのエンゲージメントにもつながります。コーチングでは、指導者や上司が答えやアドバイスを渡すのではなく、あくまで本人が自分で考える過程を何よりも重視します。もちろん、コーチングをする側には、コーチングの高いスキルが求められますが、それができれば、相手は、自分の中に何が起きているのか、課題を理解することができます。また、課題に向かって現状をどう変えていくべきなのかも、自分で分かるようになります。そして、自分で方法を選び、自分で歩き出すことになるのです。人は、他人から指示されたことよりも、自分で納得して選んだことをやり遂げようとします。そして、その自主性は、他者からのかかわりで高めることができるのです。その自主性を促すかかわりの一つがまさにコーチングです。(3)チームや組織の力が高まるメンバーが主体的に考えたり、達成への行動ができるようになれば、チームの力も上がっていきます。以前は、チームの力を高めるためには、強い指導力や管理能力が必要と感がれらえていました。しかし、近年は、チーム力の向上には、メンバーの主体性を上げるかかわりや、チーム内の関係性の質を高めるかかわりが重要と解されています。メンバーに主体性を持ってもらうためは、コンサルティングやティーチング的な指導だけでなく、本人の可能性を引き出すコーチング的なコミュニケーションを積極的にとりましょう。(4)ビジネスでも家庭でも有効に使えるコーチングは、人の可能性を引き出すコミュニケーションです。これは、仕事上のメンバーに対しても有効ですが、学校などの教育現場や、家族関係でもとてもよく使えます。例えば、先生は生徒に対して、親は子供に対してこんな思いを抱くことがあるかもしれません。子供の自主性や、やる気を育てたい他者を論破したり一方的な関係にならないように対話ができるようになってほしい自分が納得する人生を送ってほしい自分の頭で考える人であってほしいこんな願いがあるならば、子どもに対して、ティーチングだけでなく、コーチング的なコミュニケーションを積極的にとると良いでしょう。先生や親は、生徒や子供に対して、どうしても、上から指導的な態度をとりがちです。もちろん、それが必ずしも悪いわけではありません。必要な知識をしっかり教えることも大事な役割です。それに加えて、自分で考える力や、他者を良好な関係を築く対話の力を授けることも、親の大切な役割であり、そうありたいと願う親は多いでしょう。要は、指導やティーチングとコーチングをうまく使い分ける関わりが望ましいのです。その意味でも、コーチングは、今まさに教育は子育てに臨んでいる人にとても役に立ちます。なお、コーチングについてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説5 コーチングに必須のスキル3つをご紹介仕事でも家庭でも有効なコーチング、これを実際に活用するため意識しておきたい基本スキルをご紹介しましょう。(1)傾聴スキルとはビジネスでも基本スキルと言われる傾聴は、コーチングでも重要です。もはや、対人関係の必須スキルといっても過言ではないでしょう。コーチングといえば、質問が有名なスキルではありますが、質問を有効に行うためには、その前にしっかりと相手の話を聴くことが大事です。しっかりと話を聴いてもらっていないのに、いきなり質問をされても、戸惑ったり、時には、不快な感覚さえ覚えるかもしれません。相手が内面をしっかりと深く掘り下げ、気づきを得ていくためには、質問の前に傾聴が重要だという点は、よく覚えておきましょう。そして、傾聴とは相手の話や存在自体にしっかりと心を傾けて、受容しながら聴くことです。こうすればいいのに要するにこういうことだよね?この人、考えすぎじゃないかな?などが浮かんで来たら、それは、傾聴できていない証拠です。相手の話の内容や、相手の存在自体に気持ちを戻して、しっかりと聴くようにしましょう。やわらかい表情や相手をしっかり支える視線や、相槌なども大事な傾聴姿勢です。なお、自分がしっかり聴いているつもりでも、相手にはそれが伝わらなければ意味がありませ。相手にも聴いていることが伝わるように、視線や表情などで、傾聴を表現することも忘れずに行いましょう。(2)承認スキルとはコーチングで欠かせないスキルに承認のスキルがあります。承認とは相手の存在自体を認めるということです。人は、自分のことを認めてくれる人に大きく心を開くものです。認めてもらうことで話しにくかったことも伝えられ、また、内面にしっかりと向き合うことができるようになります。コーチはクライアントを決して否定せず、認めることが大事です。仮に自分の考え方と違ったとしても、それで否定したり、「こうするべきだ」などとアドバイスすることは避けましょう。クライアントが、そう思った背景などをたずねるなど、コーチングらしいかかわり方はいくらでもあります。そうしたかかわりの中で、本人には様々な気づきが産まれていくものです。また、課題に対するモチベーションも向上していきます。なお、承認も傾聴と同じように、言葉だけでなく、態度でも表現することができます。例えば、笑顔で落ち着いた態度で聴く、深くうなずく、信頼していることを伝えたり、苦労をねぎらったりすること、相手の良い面を伝えることも、承認のスキルに含まれます。(3) 質問スキルとはコーチングと言えば「質問」というくらい、質問は重要なスキルです。質の高い質問ができるようになれば、良いコーチとして活躍できる可能性がぐんと高まります。また、クライアントはもちろん、一緒にいる人を成長させ、幸せにする力も高まるといっていいでしょう。コーチングの質問には、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンイメージを高める質問具体的に思考を広げる質問思いや価値観を深める質問整理してまとめる質問など、さまざまなジャンルがあります。例えば、クローズドクエスチョンとは、限られた選択肢から答えを選んでもらう質問のことです。「今の仕事は好きですか?」「野球とサッカーはどちらが好きですか?」といった質問が該当しますオープンクエスチョンは、相手の答えを限定しない質問形式です。例えば「今の仕事をどんな風に感じていますか」「興味があるスポーツはなんですか?」など、聞かれた相手が自分で考えて、言葉に出すことが求められる質問です。一般的に、コーチングでは、オープンクエスチョンを多用して、クライアントの自由な発想を引き出し、拡散したうえで、思考をまとめるときにクローズドクエスチョンを使う、といった工夫が求められます。もし、普段の会話でクローズドクエスチョンが多いのであれば、オープンクエスチョンを意識してみると、それだけで、会話に広がりが出るでしょう。また、「もし制限がなかったとしたら、どんなことをしますか?」(思考を広げる質問)「もしもそれができたらどんな未来が広がりますか」(イメージを高める質問)「それはあなたのどんな価値観があるからでしょうか」(思いや価値観を深める質問)「話してみて、気づいたことはありますか」(整理してまとめる質問)といった展開ができれば、質問のバリエーションが豊富になり、それに沿って、クライアントの思考も大きく広がっていきます。コーチングの質問に関する詳しい説明は、こちらの記事をご覧ください。【コーチングの質問とは?】質問の具体例をまとめた保存版リスト |避けるべき例も紹介6 コンサルティング、コーチング、カウンセリング、ティーチングの違いまとめこの記事では、コーチングと似た業種であるコンサルティング、カウンセリング、ティーチングの違いと共通点を解説し、それぞれがどのような場面で有効かについてご紹介してきました。ビジネスでよいチームづくりを目指すときにも、教育や家族関係でも活用できるのがコーチングです。もちろん、相手に専門知識を伝え指導するコンサルティングやティーチングも大事ですが、コーチングとの使い分けができるようになると、周囲の力を引き出す力が身に付き、仕事も人間関係も好転していくでしょう。人生を豊かにするスキルともえいえるコーチングについて知りたい場合は、まずは本を読むことから始めるのもお勧めです。コーチングを学ぶにあたっておすすめの書籍はこちらの記事をご覧ください。ー2025年版ー【プロコーチが選ぶ】コーチングの学びにおすすめ本7冊と効果的な学び方とはもし、コーチングについて、しっかりと身につけたいと思ったときには、専門的なコーチング講座を受講し、できれば資格も取得すると安心です。当カレッジでは、ウェルビーイングのためのアカデミックなコーチングプログラムを提供しています。プロコーチ資格や国際コーチ資格の取得もできる本格的な講座です。本格的なコーチングを学びたい方、コーチングで人生を豊かにしたい方は、ぜひウェルビーイングコーチングプログラムのページをご覧ください。著者プロフィール中原阿里:ICF国際コーチング連盟プロフェッショナルサーティファイドコーチ(PCC)、弁護士、公認心理師、上級心理カウンセラー、ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ代表、CLARIS法律事務所代表弁護士、法務博士。奈良女子大学英文科英語英文学科卒業、関西学院大学大学院司法研究科修了、米国イェール大学Science of Well-Being Course修了。弁護士として活動しつつ、2019年ウェルビーイングのためのアカデミックなコーチングスクール「ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ」を設立。創立以来講師を務め多くのコーチを育成しながら、上場企業からNPO法人、大学、裁判所まで幅広い対象にコーチング研修を提供。現役の弁護士かつプロコーチとしても多数のクライアントを支援する。著書に「弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル」(日本加除出版)など。最終更新日:2025年2月11日■関連記事・コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説・コーチングの効果的な勉強法は?学び方やおすすめのスクールの選び方について・コーチングを学ぶ最適の方法は?自分にあう学習法やスクールの選び方を紹介・質問の価値を高めるコーチングスキル傾聴とは?NG例もあわせて徹底解説・【コーチングの質問とは?】質問の具体例をまとめた保存版リスト 避けるべきも紹介・ー2025年版ー【プロコーチが選ぶ】コーチングの学びにおすすめ本7冊と効果的な学び方とは■人気記事・【GROWモデルとは?】コーチングの質問の型とすぐに使える具体的な質問例もあわせて紹介・【コーチングの承認とは?】人の成長を促すスキルを3つの効果と注意点をあわせて紹介・コーチングの学びに自己理解が大切な理由とは?重要性と方法を解説