1 コーチングに活かせるGROWモデルとは GROWモデルとは、相手の可能性を引き出し、本人の力で課題解決や達成にたどりつくためのコーチングの一般的な質問手法として知られています。ビジネスにおける部下の育成や、家庭内での子育てにも応用できるスキルです。本記事では、GROWモデルの4つの要素の説明に加え、GROWモデルをさらに進化させ、質の高いコーチングに結び付くGRROOWWモデルも、実践で使える質問例、ポイントまで解説します。2 GROWモデルとは?GROWモデルとは、質問をとおして相手の課題や目標達成を支援するコーチングのアプローチです。GROWモデルを適切に使うことで、相手の思考や認識が広がり、柔軟に整理されていくようなかかわりができます。GROWモデルには、コーチングに必要とされる4つの質問のステージが含まれています。各ステージの頭文字をとって「GROW」と表しています。G:Goal(ゴール) ゴール・目的R:Reality(リアリティ) 現状分析O:Options(オプションズ) 行動の選択肢W:Will(ウィル) 意思 決断なお、コーチングとはの意義や定義についてはこちらの記事をご覧ください。コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説(1)GROWモデル:Goal(ゴール)とはGoal(ゴール)とは、本人が課題と感じていることについて、どのような状態を目指すのかを明示したものです。目標と言い換えてもいいでしょう。コーチングでは、ゴールや目標は、上司や周囲ではなく、本人(クライアント)が決めます。どんなコーチングでも、必ず最初に、クライアント自身がゴールを決めて、その自己決定に沿って進めていくことが、自主性向上のカギです。(2)GROWモデル:Reality(リアリティ)とはGROWモデルにおけるReality(現状確認)とは、クライアントの現状を確認するステージです。なお、現状確認と言っても、クライアントの一般的な現状全体を指すのではありません。あくまで、「G」のステージで明らかになったゴールとの対比で、現在はいったいどんな状況にあるのか、現在の状態を把握することです。ゴールとの関係で、できている部分ことやできていない部分を、すべて洗い出していくステージです。なお、R現状把握のステージでも、適した質問を繰り出しながら、クライアント自身が自らを振り返り、自分の言葉で言語化するように意識をもって働きかけます。(3)GROWモデル:Options(オプションズ)とはGROWモデルにおけるOptions(オプションズ 行動の選択肢)とは、ゴールに向けての現状を踏まえて、いったいどんな行動を起こしていくのかを選択肢と出していくステージです。コーチングとは、クライアントのありたい状態に向かうために、ゴールと現状のギャップを埋めていくプロセスとも言えます。それを埋めていくためにはクライアント自身の行動が必要となるため、それを具体的に探索していくのです。このときも、コーチは、クライアントに「これをやるといい」「こうしたら良い」などと指示や改善提案をしたり、「それはうまくいかないのでは」などと指導アドバイスすることはNGです。コーチングはクライアント自身が納得できる会話でなければ効果が上がりません。あくまで、クライアントの主体的なイメージやアイデアを引き出すことに集中し、できるだけ多くの選択肢があがるようなコミュニケーションで関わりましょう。(4)GROWモデル: Will(意志)とは最後に、具体的な行動計画を立て、クライアントがその計画に向き合う意志を確認します。ここは、何を、いつ、どのように行うのかを明確にして、クライアントが行動の選択肢として挙げたことを実行に移すサポートを行う段階です。このGROWモデルは、コーチがクライアントの考え方を整理し、効果的に目標を達成するためのプロセスをサポートするのに有効です。特に、自主性や自発性を重んじて、そこから本人が実際に進める行動に焦点を当てることで、クライアントの課題達成の可能性が高まります。本人から出てきた言葉を否定することなく、大切に承認しながら聴いていきましょう。3 ラッセルオリジナルGRROOWWモデルとはGROWモデルは優れたコーチングの質問手法ですが、質の高いコーチングでクライアントをより確実に支援したい場合には、お勧めの手法があります。それがGRROOWWモデルです。GRROOWWモデルとは、ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジオリジナルのコーチングモデルで、GROWモデルの精度をより高めたやり方です。GRROOWWモデルは次の各ステージの頭文字をとったものです。G テーマ・ゴールの設定R 現状確認R 資源を探すO 支障と向き合うO 行動の選択肢W 未来の創造W 自己決断 ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジでは、GROWモデルとの違いは、さらに、Rリソース、O支障、W未来の3つが加わっている点です。これらを足すことで、さらに精緻なコーチングができるのです。Rリソース、O支障、W未来のそれぞれのポイントは次の通りです。(1)GRROOWWモデル R:資源とはリソース(資源)とは、ゴールに向けて本人が進むために、役立つリソース(resource)や資源のことで、あらゆるサポートやツール、能力、環境を指します。具体的には、以下のようなものがリソースに該当します。1. 内的資源とはo スキルや知識: クライアントが持っている専門知識やスキルを指します。例えば、仕事の経験や特定の専門スキルです。o 強みや才能: クライアントが得意とすることや才能です。例えば、誠実さ、リーダーシップ、創造性、分析力などが挙げられます。o モチベーションや意志: 目標に向かって努力し続ける意欲や強い意志、自信のことです。何かを好きである気持ちも強みとして発揮される可能性が大いにあります。2. 外的資源とはo 人間関係やネットワーク: クライアントを支援する人々や、協力を得られるネットワークのことです。友人や家族、職場の同僚やメンターなども含まれます。o ツールや技術: 目標達成に役立つ具体的なツールや技術です。例えば、特定のシステムや、最近ではテクノロジーなどもクライアントを支援し、メリットを与えてくれるリソースの一つに挙げられます。o 物理的資源: 必要なお金やその他の経済的支援や物的支援が含まれます。クライアント自身が既に持っている物も、本人が気づかない資源になっていることがあります。3. 環境的資源とはo 職場やコミュニティ: クライアントが働く会社などの場所や生活環境が目標達成に役立っている可能性があります。また、趣味や学習のコミュニティも目標達成に役立つ可能性があります。GROOWWモデルのR(リソース資源)のステージでは、これらの資源を把握し、どのように活用できるかをクライアントと一緒に考えることが重要です。資源を効果的に活用することで、クライアントは目標に向かってより確実に進むことができます。(2)GRROOWWモデル O:支障とはコーチングにおけるObstacles(支障)とは、クライアントが目標に取り組む過程で直面する障害や困難のことを指します。これらの支障は、クライアントが目指す成果に到達するのを妨げる要因として作用します。そこで、セッションの中で必ずクライアントにたずねて思考を深める必要があります。支障には、以下のようなさまざまな種類があります。1. 内的支障とは• 自己制限: クライアントが自分の可能性や能力を過小評価してしまう思考です。例えば、「自分には到底達成できない」や「失敗するに違いない」といった自分に対するネガティブな思考があります。• 恐怖や不安: 変化への恐れや失敗への不安が、行動を起こすのを妨げることがあります。新しい挑戦やリスクを避けようとする心理的な抵抗や、現状を維持しようとする現状維持バイアスもここに含まれます。• 完璧主義: すべてを完璧にしようとするあまり、うまく進む道が見つけられなくなり、行動を起こせなくなることがあります。2. 外的支障とは• 環境的要因: クライアントの周囲の環境が目標達成の支障になっている可能性もあります。例えば、職場や家庭で問題があり、クライアントが自分の課題実現のために集中できない場合もあります。• 時間や資金の制約: 十分な時間が取れない、または必要な資金が不足していることが、目標達成の障害となることがあります。リソースの不足とも言えます。• 他者からの反対や批判: 家族、友人、同僚など、周囲の人々からの反対や批判が、クライアントのモチベーションを下げたり、行動の支障やひっかかりになっていることがあります。計画の欠如や不適切な計画: 具体的な行動計画がない、または計画が現実的でない場合、目標達成が難しくなります。GRROOWWモデルを用いたコーチングでは、クライアントの支障をクライアント自身が特定し、それに対処する手段も、クライアントが考えられるように質問を展開します。いくら良い課題を設定しても、支障があると達成できません。支障はそれがあるからダメというではありません。成し遂げたい目標の前には何かの支障があることを前提として取り組めばよいのです。そして、その支障を乗り越えるためには、支障にしっかりと向き合って対策もとれるようにするステージが欠かせないのです。(3)GRROOWWモデル W:未来とはコーチングのGRROOWWモデルにおけるWill(未来)とは、がクライアントが課題達成に向けて行動を起こした後の状態を指します。クライアントが自分で決めた行動を起こしたらいったいどんな状態が起きるのか、望む結果や成果が現実となった状態をイメージしてもらうステージです。なお、この未来とは、クライアントの未来だけではなくクライアントを取り巻く人や環境についても、イメージしてもらうとさらに効果的です。人は、関係性の中で生きているため、自分の行動によって、周囲や関係性がどう変化するかをたずねることで、望ましい状態や理想の具体化が進みます。そして、未来の具体化が進み、解像度が上がれば上がるほど、課題の達成度や問題解決への実効性が高まると考えられています。4 GRROOWWモデルの各ステージ別の質問例とはGRROOWWモデルを取り入れたコーチングは、そのステージに適した質問によって行われます。人は質問されると考える性質があり、その性質を使って、クライアントの思考を広げ、イメージを引き出し、それを現実の行動に落とし込めるにするのです。言い換えると、各ステージに適した質問がうまく繰り出せるかどうかが、コーチングの大きなカギとなります。できれば、質問するステージ内容をある程度、頭に入れておくと、スムーズな展開が期待できます。ここではGRROOWWモデルの各ステップにおける質問例をコーチングの流れに沿ってご紹介します。 (1)G:Goalの質問例とはGoalでは、クライアントの課題や、達成したい目標が明確になる質問が必要です。たとえば次のような質問です。• 今日テーマにしたいことはどんなことですか?• 具体的にはどんなことですか?• いつまでに達成したいと考えていますか?• それを選んだ背景や理由には何がありますか?• それはあなたにとってどれくらい重要な意義を持ちますか?• その成功は、あなたに何をもたらしますか?• どのような状態になったらゴール達成と言えますか?(2)R:Realityの質問例とはRealityでは、クライアントが現状を見渡し整理できるような質問をします。たとえば次のような質問です。• 目標に照らして、現状はどんな状態ですか?• 現在、目標の達成度は何パーセントですか?• できていることはどんなことですか?• できていない点はどこですか?• このまま進むとあなたはどうなると考えますか?• その現状の背景には何がありますか?• 目標達成のために足りないものは何ですか?• 今既に、取り組んでいることはどんなことですか?• それによって何が起きていますか?• それをどう感じていますか?(3)R(Resources)リソース資源の質問例とはResourcesでは、クライアントが課題を達成するために役立つものを確認できるような質問をします。たとえば次のような質問です。• 目標達成の助けになるものは何ですか?• 役立ちそうな経験(過去に似たような経験)はありますか?• 協力してくれる人(それに詳しい人)はいますか?• これがあればいい、と思うのは何ですか?• 達成にあたり、良い影響を受けているものは何ですか?• それを手に入れるにはどうしたらいいですか?(4)O:Options(行動の選択肢)の質問例とはOptionsでは、クライアントができるだけ多くの選択肢を自由に発想して、気づきや発見が広がるような質問をします。たとえば次のような質問が挙げられるでしょう。• 例えばどんな方法がありますか?• これをやってみようという思いつきはありますか?• やったことのない方法で、試したいものはありますか?• なんの制約もないとしたら、どんな行動が考えられますか?• これまで取り組んだ方法を少し変えるとしたらどんな変化を加えますか?• ●●さん(ほかの人)なら、どんな行動をすると思いますか?• 別のものに置き換えたとき、何か方法が浮かびますか?• 他には、何かできることはありますか?(5)W:Wil(未来)の質問例とはWill(未来)では、行動の選択肢が実行されたらどんな変化が起きるか、未来像をイメージできるような質問をします。たとえば次のような質問です。• それらをやり遂げたら、何が起きますか?• それはあなたにとってどんな意味を持つのでしょうか?• その時、どんな感情になりますか?• それによって、周囲にはどんな変化が起きるでしょうか?• その時、どんな景色が見えますか?• そのことから考えて、あなたはどんな価値観を持っているのでしょうか?(6)W:Will(意思)の質問例とはWil(意思)の質問ステージでは、さまざまな行動の選択肢の中から優先順位をつけ、実際に目標達成のために実行するアクションを決めるための質問を行います。次のような質問です。• では、何から始めますか?• それを、いつ始めますか?• そのために、必要な準備はありますか?• いつまでにそれを完了させますか?• 仮にうまくいかなかったらどうしますか?• できそうな度合いはどれくらいですか?これらの質問を各ステージでしっかり行うことで、クライアントの課題達成を支援する質の高いコーチングが可能になります。GRROOWWモデル以外の質問のポイントについてはこちらの記事をご覧ください。【コーチングの質問とは?】質問の具体例をまとめた保存版リスト |避けるべきも紹介5 GRROOWWモデルと質問のまとめこの記事では、コーチングに活用できるGROWモデルと、それをさらに進化させた当スクールオリジナルのGRROOWWモデルについて解説してきました。GROWモデルは、Goal(目標設定)、Reality(現状確認)、Options(行動の選択肢)、Will(意思)の4つのステージを通じて、クライアントの目標達成を支援する手法です。GRROOWWモデルは、これに加えてResources(資源)、Obstacles(支障)、Will(未来)を含むことで、より精緻で効果的なコーチングが可能です。コーチングは、相手の可能性を最大化し、個人の自主性を促すスキルであると同時に、信頼関係を基礎とした良い関係を作り出すコミュニケーションスキルでもあります。GRROOWWモデルを用いた対話が活用できるようになると、マネジメント力はもちろん、人材育成も進みます。自分がいる組織やチームの力も開発されると同時に、自分自身も充実感が得られるようになります。コーチングについて学びたい方は、書籍や単発の体験セミナーなども役立ちます。さらに学びを深めたい方は、本格的なコーチングスクールで学ぶと、関係性を高めるコーチングが身についていくでしょう。GRROOWWモデルを専門的に学べるコーチングスクールの扉をたたくこともお勧めします。ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジは、GRROOWWモデルについてしっかり学び、高いコーチングスキルを身に着けたい方におすすめです。くわしいウェルビーイングコーチングプログラムのページをご覧ください。著者プロフィール中原阿里:ICF国際コーチング連盟プロフェッショナルサーティファイドコーチ(PCC)、弁護士、公認心理師、上級心理カウンセラー、ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ代表、CLARIS法律事務所代表弁護士、法務博士。奈良女子大学英文科英語英文学科卒業、関西学院大学大学院司法研究科修了、米国イェール大学Science of Well-Being Course修了。弁護士として活動しつつ、2019年ウェルビーイングのためのアカデミックなコーチングスクール「ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ」を設立。創立以来講師を務め多くのコーチを育成しながら、上場企業からNPO法人、大学、裁判所まで幅広い対象にコーチング研修を提供。現役の弁護士かつプロコーチとしても多数のクライアントを支援する。著書に「弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル」(日本加除出版社)最終更新日:2025年2月11日■関連記事・コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説・【コーチングの質問とは?】質問の具体例をわかりやすくした保存版リスト |やってはいけない質問も紹介・コーチングの学びに自己理解が大切な理由とは?重要性と方法を解説・質問の価値を高めるコーチングスキル傾聴とは?NG例もあわせて徹底解説・【2025年】国際コーチング資格取得について:特徴や選び方をまとめて解説■人気記事・ー2025年版ー【プロコーチが選ぶ】コーチングの学びにおすすめ本7冊と効果的な学び方とは・マネジメントに必須のコーチングスキルとは?ー習得のメリットと方法をコーチが解説ー・コーチングの効果的な勉強法は?学び方やおすすめのスクールの選び方について・「コーチングを学ぶ最適な方法とは?コーチングの難しさと確実に学ぶ方法をプロコーチが解説:本格的に学びたい方向け