1. コーチングの質問とはコーチングとは、人が自身の目標を達成し、ありたい状態への成長していく姿を支援するコミュニケーションメソッドです。コーチは相手との対話を通じて、本人が持っている能力や可能性を引き出し、それを最大化するようなかかわりを行います。そのコーチングにはさまざまなスキルがありますが、中でも特に重要なのが「質問」です。効果的な質問は、相手の思考を深め、新たな視点や発見を生み出すことができます。それによって、本人は、指示や命令を受けることなく、主体的に答えを見つけていけるようになります。ビジネスのシーンでも、日常生活でも、子育てや教育の場面でも、質問力が高い人は、相手の可能性を大きく引き出す良いコミュニケーションができている人、つまり育成力が高い人とも言えます。では、コーチングに重要な質問とは、具体的にどんなものでしょうか。本記事では実例と共に、コーチングにおける良い質問を国際プロコーチが詳しく説明します。なお、やってはいけないNGの質問例も挙げていますので、ぜひコーチングを学びたい方はもちろん、既にコーチングを実践されている方も、ぜひ参考にしてください。2. コーチングと一般会話の質問の違いそもそも、コーチングの質問と、一般的な会話の質問には大きな違いがあります。一般的な質問は、質問する側、つまり聴き手のために行います。つまり、質問する側が自分にとって知りたいと思ったことを相手にたずねるのが、一般的な質問の仕方です。 例えばそのカバン、どこで買ったの?いくらで買ったの?といった質問は、質問する側が、相手が持っているカバンに個人的な興味を抱き、その値段や入手した場所など情報を知りたいから聞いているものです。質問された側には、自分のカバンの値段や買った場所を聞かれて答えることは簡単でしょうが、この質問によって、本人の中に得られるものは少ないでしょう。少なくとも、新しい気づきや内省の機会になるとは思われません。一方、コーチングの質問とは、あくまで、相手、話し手のために行います。言い換えると、相手の中にあるものを引き出し、それまでになかったような相手に役立つ気づきや、未来に向けた新しい発見につなげるために行うのがコーチングの質問です。例えば、相手が、どんなカバンを買おうか悩んでいるとします。そんな時、カバンを買ったら、どんな場面で使っていると思う?カバンについて、譲れないポイントってどんなところ?これまでに、買ってよかったカバンってどんなもの?買って失敗だったカバンはどんなもの?カバンを持つことでどんな自分になっていたい?カバンに求めるものって、改めてなんだと思う?などの質問がコーチング的な質問です。相手のカバンにまつわるさまざまな思考を、いろいろな角度から広げようとしている姿勢が感じられます。「カバンを買いたいが迷っている」というクライアントに合わせることで、カバン一つでもたくさんの問いが広がる可能性を如実に示していますね。このように、コーチング的な質問とは、あくまで、自分ではなく「相手が考えたい事柄」について、さまざまな角度や視点からダイナミックに問いを展開することで、相手の中にある思いや気づきを引き出す目的で行われる点に特徴があります。3.クローズドクエスチョンと オープンクエスチョン質問には,さまざまな分類があります。いくつかの分類を整理してみましょう。もっともシンプルで有名な分類は,クローズドクエスチョンとオープンクエスチョンとの違いです。まず,それぞれの基本的な意味や具体例、うまく使うためのポイントを説明します。(1) クローズドクエスチョンクローズドクエスチョンは、聴き手が設定した限られた選択肢の中から,話し手が答えを選んで回答する質問です。クローズドクエスチョンの典型例は、イエスまたはノーで答える質問です。具体例リンゴは好きですか?小さい頃は活発だったのですか?休日は遊びに出かける方ですか?今の仕事に充実感を感じていますか?いずれも、答えは、イエスかノーかで答えることが想定された質問です。また、いくつかの選択肢をあらかじめ示したうえで、その中から選んでもらう質問も、クローズドクエスチョンにあたります。具体例平日と週末で、都合のいい方はどちらですか?和食、洋食、中華なら、どれがお好みですか?インドア派ですか、アウトドア派ですか?小さい頃は、活発でしたか、それとも、大人しい性格でしたか?いずれも、話し手が自分で自由に考えて答えを出すのではなく、あらかじめ聞き手が用意した選択肢の中からいずれかを選んで答えるという仕組みに特徴があります。これがクローズドクエスチョンです。(2) オープンクエスチョンオープンクエスチョンとは、相手の答える内容に制限を持たせず、クライアント本人が思ったままに、なんでも自由に答えてもらうことができる開放型の質問を指します。具体例どんな果物が好きですか?ご都合の良い時間帯はいつですか?小さい時はどんな性格でしたか?今の仕事について、どんな風に感じていますか?こうした質問では、相手は自分の思考に探って,制限のない状態で自由に答えを考えて話すことができます。思考の幅が広がり、結果として、自由度が高い発想や展開に結び付く可能性があります。そのため、どんな答えが返ってくるのか、質問者に予想がつきにくい質問でもあります。(3)クローズドクエスチョンとオープンクエスチョンの効果的な使い分けクローズドクエスチョンとオープンクエスチョンは、それぞれ異なる強みを持つため、状況に応じて使い分けることが重要です。クローズドクエスチョンの活用場面クローズドクエスチョンは、回答者が提示された選択肢の中から答えを選ぶ形式なので、回答する側の負担が少なく、比較的簡単に答えを引き出すことができます。そのため、以下のような場面で特に有効です。迅速な情報収集や意思決定: 短時間で特定の情報を確認したい場合や、スピーディーに結論を出したい場合に適しています。「はい」「いいえ」で答えられる質問や、具体的な数字や事実を確認する質問などがこれに当たります。例えば、「A案とB案、どちらが良いですか?」といった質問は、素早く方向性を決定するのに役立ちます。相手の理解度の確認: 話し手が説明した内容が正しく伝わっているかを確認する際にも有効です。「~ということでお間違いないでしょうか?」といった質問は、認識のズレを防ぎ、明確なコミュニケーションを促進します。会話の方向性の絞り込み: 漠然とした状況から具体的な話に進めたい場合など、会話の焦点を絞り込むきっかけとしても活用できます。このように、クローズドクエスチョンは、手軽で明快な質問手法であり、特定の場面では大いに役立つ便利なツールと言えるでしょう。コーチングにおけるオープンクエスチョンの重要性一方で、オープンクエスチョンは、コーチングにおいて非常に重視されます。コーチングの主要な目的は、クライアントの内にある潜在的な思いや考えを引き出し、時には新たな発想や解決策をクライアント自身で見つけてもらうことにあります。クローズドクエスチョンばかりでは、質問者が用意した枠組みの中でしか答えが出にくく、思考が限定されてしまう傾向があります。これでは、クライアントが自由に発想を広げたり、心の奥底にある本当の気持ちに気づいたり、自分では見えていなかった重要な価値観にまでタッチしていく過程を妨げてしまう可能性があります。そのため、コーチングのセッションでは、意識的にオープンクエスチョンを多用することが望ましいとされています。オープンクエスチョンは、「そう思ったのはどんな背景からでしょうか?」「具体的にどのような状況ですか?」「その状況をご自身はどうとらえていますか」「では、これからどうしていきたいですか?」といったように、回答者が自由に、そして深く考えることを促す質問です。より発展的な質問ともいえるでしょう。これにより、クライアントは自身の内面と向き合い、固定観念にとらわれずに多様な可能性を探求し、自らで答えを導き出すプロセスを体験できます。コーチは、オープンクエスチョンを通じて、クライアントが自身の考えを深め、多角的な視点から物事を捉え、最終的に自己成長へと繋がる気づきを得られるようにサポートするのです。これが、コーチングにおける質問の重要なコツであり、クライアントの潜在能力やまだ言葉になっていないけれども大切な思いや未来像を最大限に引き出すための鍵となります。なお、コーチングの質問は、本からも学ぶことができます。コーチングに役立つ本についてお勧めを知りたい方は、【プロコーチが選ぶ】コーチングの学びにおすすめ書籍7冊と効果的な学び方もご覧ください。4. 質問の4つの角度オープンクエスチョン、クローズドクエスチョンのほかにも、質問にはさまざまな分類が可能です。ここでは、質問の角度という観点の分類を紹介します。(1) 思いを深める質問思いを深める質問は、相手の内側にある価値観や感情、信念などに焦点を当て、その背景にある考えや思いを掘り下げるための質問です。具体例その経験を通じて何を得たのでしょうか?その選択をした背景にはどんなことがあったのですか?それは、あなた自身のどんな価値観から生まれたのでしょうか?改めて、あなたはどんな人生を生きたいと思っているのでしょうかいずれも、話し手の深い思いや源泉に近づくような問いです。コーチングでは、自分一人ではたどり着かないようなところに、質問を通じて触れていくことに価値があります。そこで、思いを深める質問が役に立つのです。そもそも、人は、自分の選択や行動がどんな意味を持っているのか、自分がどんな価値観を持っているのか、わかっているようで案外とわかっていないものです。しかし、これが不明確なままだと、選択や行動に迷いが生まれます。その結果、不安に駆られたり、行動が止まってしまって目標が遠ざかることもあります。そんな場合には、そもそも、自分がどんな価値観を持っているのか、何が原動力になっているのかを知る必要があります。コーチングでは、本人の深い思考や価値観を大事に扱いますが、その前提には、思いを深める質問を駆使し、本人がそれに気づくように、質問を重ねていく過程が重要なカギになります。これにより、相手は自身の内面的な動機や価値観、信念について深く考える機会を得られるのです。(2) 思考を広げる質問思考を広げる質問は、相手の視点やアイディアを広げ、新しい考え方や可能性を探るための質問です。具体例他にはどんな方法が考えられますか?仮に制限がなかったら、どうしますか?欲しい支援が得られとしたら、どんな支援があるといいでしょうか?今までにやったことがないことを挙げるとしたらどんなことがありますか?尊敬する○○さんだったらどんな言葉をかけるでしょうか?といった質問が該当します。人はどうしても既存の思考の枠組みの中で考えてしまう癖を持っています。それは悪いことではありまんが、既存の思考を超えて、時には視点を変える試みの中から、新しい気づきや可能性を見出すことが、コーチングの目的とも言えます。そこで、「ほかには?」「仮に制限がないとしたら?」など、あえて、既存の枠を超えた質問を投げかけることによって、話し手の思考を広げるかかわりを行います。これにより、より創造的な発想や新しい視点が引き出されます。(3) イメージを高める質問イメージを高める質問は、相手のビジョンや未来像を具体化し、その達成イメージを鮮明にするための質問です。具体例あなたにとって理想的な状態はどんなものですか?それがうまくいったとき、どんな気持ちになると思いますか?その気持ちを誰と分かち合っているでしょうか?それによって、組織や周りにはどんな変化が起きるのでしょうか?人が課題を抱えているときには、ついつい、うまくいっていないことに注意が行きがちです。しかし、その課題を解決した先の未来を具体的にイメージすることが、課題を乗り越えるための大きな原動力になります。イメージを高める質問を行うと、相手は自分にとっての未来の具体的なイメージを描くことができ、意欲も高まっていくのです。(4) 考えをまとめる質問考えをまとめる質問は、相手の思考を整理し、結論や今後のアクションを明確にするための質問です。具体例ここまで話したことを、まとめるとどうなりますか?一言でいうと、あなたにとって成功とはどんなことでしょうか?改めて、これから最初の一歩は何だと思いますか?今日の話始めたときと、今の時点で、目標の見え方で異なる点はありますか?こうした質問によって、相手は考えを整理してまとめることができると同時に、具体的な次のステップを明確にすることができます。以上のように、さまざまな角度の質問をバランスよく活用することで、相手の思考を豊かに広げ、また、行動を一歩進めやすくすることで、効果的なコーチングが可能になります。なお、このようにして相手の思考を広げた先には、何よりも、本人の幸せな状態、言い換えるとウェルビーイングな状態が表れてくるはずです。もしも、一生懸命に目標を達成した後に、本人に充実感や幸せが感じられないのであれば、それは、そもそも目標や課題感にずれがあったのかもしれません。つまり、コーチングでは、本人にとって真の幸せや人生の充足感などを含めたウェルビーイングな状態を大切にする姿勢が求められます。ウェルビーイングの詳しい意味やコーチングとの関連について知りたい方は、ウェルビーイングコーチングプログラムのページをご覧ください。5. 質問力を高めるポイントコーチングにおいて、効果的な質問はクライアントの思考を深め、行動を促す鍵となります。ここでは、質問力を高めるための4つの重要なポイントを紹介します。(1) コーチの思い込みを捨てるコーチングにおいて、コーチ自身の思い込みや偏見を取り除くことは非常に大切です。コーチはクライアントの状況や考え方を固定的に捉えず、オープンな姿勢で接することが求められます。コーチが無意識に抱く先入観やバイアスは、質問の質を低下させる原因のひとつです。例えば、自分が持っているイメージにこだわっていると、知らず知らずと、相手の話をジャッジしながら聞くことになります。その結果、「どうしてそんな発想になるのだろう?」などと、相手に対して批判的になったり、「こうすればいいのに」と、アドバイスを与えたくなったりしがちです。しかし、コーチングは、相手の可能性を引き出すことが目的です。相手の考えを否定して責めたり、こちらが思っていることを、相手にやらせるために行うものではありません。コーチングの質問では、自分のジャッジを捨てて、あくまで相手の内心を引き出すかかわりを意識しましょう。(2) 原因探しよりもありたい状態に目を向ける人は、何かがうまくいかないときに、その原因は一体何なのかを探るために多くのエネルギーを使います。もちろん、目標達成のためには原因を探ることも大事ですが、コーチングでは、原因探しだけではなく、クライアントの「ありたい状態」に焦点を当てるアプローチが有効です。原因探しは過去に目を向けがちですが、クライアントがどのような未来を望んでいるかを明確にすることで、前向きな変化を引き起こすサポートができます。例えば・なぜこれがうまくいかなかったのか?と問うのではなく・どのような状態を目指していますか?・そのために自分に必要なものは何だと思う?などを尋ねることで、相手は自分や周りを責める視点から離れて、自身の目標やビジョンに集中しやすくなり、そのための行動計画も立てやすくなります。気持ちの整理も進みやすくなります。コーチングでは、問題を解決しようとして原因探しに固執する姿勢は手放して、これからどうありたいのかを、改めて問いかける質問を意識しましょう。(3) 普段は考えたことがないような点を問うコーチングの質問力を高めるためには、相手が普段は考えたことがないような点に焦点を当てる質問を意識することが効果的です。いつも自分で考えていることと同じようなことを質問しても、相手の思考は広がりにくいからです。人は、90%は昨日と同じことを考えている、とも言われるくらいですから、コーチングでは、それとは異なる思考にたどりつけるような問いを立てたいところです。例えば・もし時間の制約がまったくなかったら、どんなことをしてみたいですか?・逆に、あと1日しかない、となったら、何をやって何をやめますか?・今までにない方法でこの問題を解決するとしたら、どんなアプローチがありますか?・絶対にうまくいくとしたら、何から始めたいですか?といった質問が挙げられます。これらの質問は、普段は自分では思いつきにくい質問です。仮に思いついたとしても、真剣に向き合わず、思考が広がる過程を味わうことが難しい問いでもあります。こうした問いをコーチが適宜に出すことで、相手は創造的に考え、問いの先の世界にめをむけることで、自分自身の内側にある思いや力を引き出すきっかけとなります。なお、こうした質問が出された時、相手はすぐにはスラスラと答えられないかもしれません。むしろ、多少の戸惑いが出てくる可能性もあります。しかし、それは、本人の思考が広がっている証でもあります。つまり、コーチングの観点からすれば、その戸惑いは、決して悪いものではないのです。むしろ、相手が簡単に答えられるような質問ばかりでは、コーチングがあまり機能していない可能性も高いといえます。勇気をもって、相手の思考を超えるような問いを立てていくのがコーチの役割です。そして、向き合って問いについて考えているクライアントを大きな心で受け入れて、思考のスペースを十分に作り出して、クライアントを支える役割も果たしましょう。(4) 質問の前にしっかりとした傾聴を質問は大切なスキルですが、質問だけを繰り返し続けると、時には相手との信頼を築くのが難しくなることがあります。そもそも、質問とは相手の内心を言葉に出してもらうことです。信頼の無い相手から質問されても、安心して答えられないだけでなく、踏み込んでこられたような気持になり、不快にさえなるかもしれません。これでは、相手の思考を深めることはできず、たとえ、どんなに良い質問であったとしても、コーチングの効果が発揮できません。質問の効果を高めるためには、まず、相手の話を心から聴き、十分に共感や受容を示したうえで質問をすることが大切です。いくら良い質問を繰り出しても、相手に受け入れられなければ意味がありません。むしろ、関係を悪化させる結果につながってしまいます。つまり、良い傾聴は、質問が効果的に機能するための、重要な前提要素であることを、くれぐれも理解しておきましょう。傾聴についての詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。質問の価値を高めるコーチングの傾聴スキルとは?NG例もあわせて徹底解説なお、コーチングの質問を構造化して質を高めるには、GROWモデルと呼ばれるコーチングの型を用いることもお勧めです。コーチングをどんな場面でも適切に使いこなせるようになるための一つの枠組みとなるものです。詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。【コーチング質問の型:GROWモデルとは】具体的な質問例も紹介6. やってはいけない質問コーチングの質問は相手の思考を深め、未来に向けた行動を促すための重要なツールです。ところが、質問の中にも、やってはいけない類型があります。ここでは、コーチングで避けるべき3つの質問のタイプについて解説します。(1) 見せかけの質問見せかけの質問とは、実際には質問する意図がなく、相手を非難,否定したり、自分が言いたいことを相手に示すために、質問形式で投げかけることを指します。具体例本当にそれでいいと思っているの?一体、いつになったらできるようになるの?「本当にそれでいいと思っているの?」は、「それでいいわけがないでしょう」という、聞き手が言いたいことを主張するだけの発言です。「一体、いつになったらできるようになるの?」は、本当にいつできるのか?をたずねているのではなく「いつまでたってもできるようにならないあなたはダメな人だ」といった、非難の意味が感じられます。このような言い方が、まさに見せかけの質問です。いずれも、相手を追い詰めたり、プレッシャーをかけるだけで、建設的な気づきや成長を生み出しません。それどころか、相手の自尊心や自己肯定感を害し、信頼関係を損なう可能性も高く、決してやってはいけない質問です。(2) ジャッジに基づく質問ジャッジに基づく質問とは、質問する側が特定の思い込みや判断を持って質問することを指します。具体例仕事と家庭なら、家庭を大事にすべきですが、あなたは、そのためにどんな努力をするのですか?上司なら厳しく伝えるべきですよね、で、どんな風に伝えたのですか?といった質問です。これには、「仕事より家庭のほうが大事」「上司なら厳しく伝えるべき」という質問者の価値観や判断が前提として含まれている点で、相手の自由な発想を阻害してしまいます。この前提が正しいとか、一般的かどうか、といった点はこーちんぐにおいてはまったく関係ありません。前提を置くこと自体が、コーチングの質問の効果を下げてしまうということです。クライアントからすれば、一般論を押し付けられたように感じ、結果として、思考が停止したり、逆に自分の考えに固執する可能性も高まるかもしれません。なお、こうした前提は、聞き手の無意識の思い込みや、知らず知らずに取り込んだ常識的な知識や発想などが背景にあります。人は誰でも個人的な体験や知識から、次第に固定的な価値観を形成していくものであり、それ自体が決して悪いわけではありません。しかし、コーチングの質問では、聞き手の価値観に基づく先入観やジャッジをできるだけ排除し、ニュートラルな問いを出せるように意識することが求められます。コーチングを学ぶ際には、自己理解の過程で、自分がどんな価値観や思いこみを持っているのかを知っておく必要があります。これからコーチングを学ぶ際には、相手に関わる前によく自分を知って、知らず知らずに持っている前提を外せる取り組みも進めると良いでしょう。(3) 他のスキルと質問が一文になっているコーチングにはたくさんのスキルがあります。質問も、そのたくさんのスキルの中の一つの要素です。そこで起きやすいのが、質問のスキルと、それ以外のコーチングのスキル(例えば、フィードバックや承認)を一文に混在させてしまうケースです。これを行うと、クライアントは途端に話しにくくなってしまいます。また、複数のスキルが一文に入っていると、質問やコーチの言いたい意図が不明確になってしまいます。他のスキルと質問とを合わせて一文で問いかけることはぜひとも避けましょう。具体例で解説します。具体例少し不安そうにも見えますが、ご自身ではこれから、どうありたいと思いますか?一見すると自然な問いかけです。日常的な会話なら、配慮にあふれた むしろ良い関わりでしょう。しかし、コーチングでは、良いとは言えません。何故なら前半部分の、「少し不安そうに見える」という個所は、聞き手から相手がどう見えるか、という印象を伝える行為であり、スキル名で言えば「フィードバック」に該当します。一方、後半部分の「ご自身ではこれから、どうありたいと思いますか?」という個所は、まさに「質問」です。つまり、この一言は、フィードバックスキルと質問のスキルが一文でつながっているわけです。フィードバックとは、聴き手から見た相手の印象にすぎませんから、それを渡すならば、それに対して本人はどう思うのか、必ず確認しなければいけません。フィードバックの渡しっぱなしは禁止です。つまり、「不安そうに見える」というフィードバックに対して、本人がまずはどう感じるのかを確認するということです。もしかすると、本人は全く不安など感じておらず、「不安そうに見える」という表現に、強い違和感を抱いているかもしれません。ところが、その直後に「どうありたいですか?」という質問が入っているために、その違和感をどうしようもないまま、「どうありたいか」という問いに答えざるを得ない展開が創り出されています。これは、コーチングでは決して推奨されないコミュニケーションです。このように、複数のスキルが一文でつながった質問は、コーチング入門段階の初心者はもちろん、経験者であっても意外によくやってしまう例でもあります。コーチは、質問とその他のスキルをはっきりと区別し、わかりやすい表現をすることが大切です。このようにコーチングの質問だけでも、様々なポイントがあります。コーチングの全体像や学び方について、詳しくは、こちらの記事をご覧ください。コーチングとは?コーチングの意味やポイント、学ぶ方法を解説また、本格的にコーチングを学びたい方は、コーチングの学び方を解説したこちら記事をご覧ください。コーチングを学ぶ最適な方法とは?コーチングの難しさと確実に学ぶ方法をプロコーチが解説:本格的に学びたい方向け7. コーチングの質問まとめここまで、コーチングでの効果的な質問をするための実践的なポイントと、質問例をご紹介してきました。コーチングは人の成長や課題達成を確実に実現するための、優れたコミュニケーションメソッドです。その中でも質問は特に重要なスキルで、仕事にも日常生活にも役立てることができます。他方,質問は相手への影響が強いため,まちがった使い方をすると,信頼を崩してしまい逆の効果をもたらす可能性も十分あります。効果的な質問のためには、見せかけの質問やジャッジに基づく質問、他のスキルと混在した質問は避けること,オープンで、さまざまな角度からの立体的な質問を心がけ,相手の成長のためになる関りを行いましょう。効果の高い質問を組み立てることは簡単ではありませんが、意識して始めることで必ず質を上げることができます。そのためにも、ここで例に挙げた質問をぜひ活用してみてください。なお、本格的にコーチングを学んでみたい方のために、ラッセル ウェルビーイング コーチング カレッジでは、初めての方でもコーチングをアカデミックに学べるウェルビーイングコーチングプログラムもすべてオンラインで提供しています。国際認定のプロフェッショナルコーチ資格も得られます。質問力のレベルを高めたい方はもちろん、会社の中で部下への対応の力を高めたい方、教育や子育てにも活用したい方、コーチング経験者にもおすすめの講座です。プログラムについて、詳しくはウェルビーイングコーチングプログラムについてのページをご覧ください。コーチングでウェルビーイングを高めて生きた方の学びを当カレッジは心から応援しています。また、代表自らがプログラムをご紹介する無料説明会も開催中です。説明会参加者様だけの受講料割引特典もご用意しています。ぜひお気軽にご参加ください。無料説明会はこちらからお申込みいただけます。最終更新日 2025年7月10日著者プロフィール中原阿里:ICF国際コーチング連盟プロフェッショナルサーティファイドコーチ(PCC)、弁護士、公認心理師、上級心理カウンセラー、ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ代表、CLARIS法律事務所代表弁護士、法務博士。奈良女子大学英文科英語英文学科卒業、関西学院大学大学院司法研究科修了、米国イェール大学Science of Well-Being Course修了。弁護士として活動しつつ、2019年ウェルビーイングのためのアカデミックなコーチングスクール「ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ」を設立。創立以来講師を務め多くのコーチを育成しながら、上場企業からNPO法人、大学、裁判所まで幅広い対象にコーチング研修を提供。現役の弁護士かつプロコーチとしても多数のクライアントを支援する。著書に「弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル」(日本加除出版)など。■関連記事・ー2025年版ー【プロコーチが選ぶ】コーチングの学びにおすすめ本7冊と効果的な学び方とは・質問の価値を高めるコーチングスキル傾聴とは?NG例もあわせて徹底解説・【GROWモデルとは?】コーチングの質問の型とすぐに使える具体的な質問例もあわせて紹介・コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説・「コーチングを学ぶ最適な方法とは?コーチングの難しさと確実に学ぶ方法をプロコーチが解説:本格的に学びたい方向け■人気記事・マネジメントに必須のコーチングスキルとは?ー習得のメリットと方法をコーチが解説ー・コーチングの効果的な勉強法は?学び方やおすすめのスクールの選び方について・コーチングの学びに自己理解が大切な理由とは?重要性と方法を解説・国際コーチング資格取得とは:特徴や選び方をまとめて解説