コーチングは、ただの「アドバイス」ではありません。クライアント自身が本来持っている力を最大限に引き出し、自ら気づき、行動し、変化していくためのプロセスです。では、実際にコーチングはどのように進められるのでしょうか?この記事では、現状の確認から目標設定、障害の明確化、行動の具体化、そして振り返りに至るまで、コーチングの基本的な流れを5つのステップに分けてわかりやすく解説します。1.具体的なコーチングの手順(1)現状の課題を確認するコーチングを効果的に進めるためには、まず現在の課題をしっかりと確認することが重要です。というのも、本人は、意外にも自分の現状を正確に把握できていないことが多いためです。成長や変化のためには、まず自分が今どの地点にいるのかを正確に理解する必要があります。そのため、現状の把握はコーチングの最初のステップとなります。現状の把握場面では、それに合った質問を用いて、本人が自分の現状を正確に捉えられるようサポートします。このプロセスを通じて、本人は自分の強みや課題、そして目標を明確にしていきます。例えば、コーチは次のような質問を投げかけます。「今、どの部分がうまくいっていますか?」「逆に、どの点に課題を感じていますか?」「それが、自分にどのような影響を与えていますか?」 これらの質問に取り組むことで、本人は自分の状況を客観的に見直すことができます。このように現状を把握するステップがなければ、具体的な目標設定や行動計画を立てるのは難しくなります。したがって、コーチングを始める際には、まず現状を正確に把握することが不可欠であり、そこから自分の成長に向けた具体的な一歩を踏み出すことが可能となるのです。(2)目標を明確にするコーチングを効果的に行うためには、目標や理想とする状態を明確に設定することが不可欠です。コーチングでは、毎回しっかりとしたテーマを設定して進めることが特徴ですが、そのテーマはコーチが伝えたいことやアドバイスではなく、相手自身が抱えている課題である必要があります。例えば、 「今、どんなことに挑戦したいと感じていますか?」「理想の状態はどのようなものですか?」 といった質問を通じて、本人が自分の目標や理想とする状態を明確にできるようにします。さらに、「そう考えるに至った背景は何ですか?」「その目標を達成したら、どのような変化が期待できますか?」「そのことについて考えることに、どのような意味がありそうですか?」といった問いを加えることで、相手の思考がさらに深まり、自分と向き合う機会が生まれます。こうした問いかけによって、テーマや課題がより意味のあるものとなっていきます。このように、テーマや課題に対する問いかけを工夫し、クライアントが自分の内面を言葉にできるようサポートすることが重要です。明確な課題やテーマが浮き彫りになることで、はじめてそれに向けた具体的なやり方や行動計画が立てられます。あくまでコーチングとは、クライアント自身が望む状態の実現を支援するものですから、クライアント自身の目標を言語化してもらうことは、コーチングに必須の過程なのです。(3)支障やハードルを明確にするコーチングでは、テーマや課題が決まったら、その実現に向けた障害や必要なリソースについても話し合うことが重要です。何かを達成しようとする際、たいていはその前にいくつかのハードル、つまり障害が立ちはだかるものです。コーチングは、相手が自分の課題に向かって確実に進むためのサポートを行うものです。支障があることは、悪いことではありません。目標があるからこそ、支障やハードルが存在しているのであって、それを超えていく力はクライアントに備わっていると考えるのがコーチングです。課題に取り組む前に障害にも目を向けることはコーチングにおいては不可欠です。楽観的な話ばかりしていると、後で挫折したり、計画が行き詰まったりするリスクも高まります。例えば、相手が「新しいスキルを身につけたい」と考えている場合、コーチは次のような質問をします。 「そのためにどんなリソースや機会が必要ですか?」「どんな支障が予想されますか?」もし相手が「時間の確保が難しい」と答えたなら、その「時間が足りない」状況をさらに掘り下げます。そして、 「どれくらいの時間が必要ですか?」 「どのようにして時間を確保したいですか?」「時間を確保できた場合、何が変わりますか?」といった質問を通じて、相手がなぜそれを障害と感じているのかという理由や、支障・ハードルを乗り越えるための様々な視点を引き出します。このように、コーチングでは、目指す未来に進むための障害を考慮し、それに対応する行動を決めていくプロセスが欠かせません。このステップを忘れずに対話に組み込むことで、より実現可能性を高め、目標達成に向けて確実に進むことができます。(4)行動を具体化する現状を把握し、課題を設定し、障害やリソースを明確にしたら、次に具体的な行動を考える段階に進みます。このように、実際の行動に落とし込んでいくプロセスも非常に重要です。コーチングでは、相手に良質な質問を投げかけることで、それまで気づかなかった新しい視点や洞察が生まれることに一つの価値を置いています。しかし、こうした気づきを得ただけではコーチングは十分に機能したとは言い切れません。というのは、人が前進し、何かを実現していくためには、気づきから生まれた行動に進むことが不可欠だからです。セッションで得られた気づきを、具体的な行動に落とし込むことで、人は初めて課題解決や目標達成に実際に向かうことができます。行動の具体化の場面では、例えば、相手が「プロジェクトマネジメントの成功」を課題として挙げた場合、「現在のプロジェクト管理でどのような問題がありますか?」と問いかけます。もし相手が「チームのコミュニケーションが不足している」と感じたなら、その課題に対応する具体的な行動について問いかけていきます。例えば、 「そのコミュニケーション不足を改善するためにはどんな方法がありますか?」「具体的にコミュニケーションを高めるには何が必要だと感じますか?」 といった質問をすることで、「週に一度のチームミーティングを設定する」などのアイデアが出てくるかもしれません。さらに、コーチは「そのミーティングを実現するためにどのような準備が必要ですか?」といった質問を通じて、具体的な行動や手段を描けるようにします。例えば、「議題を事前に準備し、全員のスケジュールを調整する」「ミーティングでは毎回5分間、最近の良い出来事を共有する」「感謝の気持ちを伝えるためのコミュニケーションボードを設置する」など、より具体的な行動がアクションとして挙がってきます。これはコーチ側が具体的に質問を重ねることで生まれてくる流れであり、気づきを具体的な行動に落とし込むプロセスです。人は具体的な行動しか実行できませんから、できるだけ具体的で本当にクライアントが動き出せるような具体的な行動が出てくるように関わるのがポイントです。なお、ここで大切なのは、クライアント自身が具体的な行動を導き出せるような質問をすること、つまり、コーチ側が指示や提案を与えないことです。コーチングの本質は、クライアントが自主的に考え、主体的に行動することでより良い未来を実現することを支援する点にあります。例えば「●●の方法も試してみてください」「○○はうまくいかないと思いますよ、それはやめておいた方がいいでしょう」などの発言は指示や提案になってしまいます。コーチングは本人がみずから考えて、選ぶことを何よりも重視します。相手が自分で決めたからこそ、実際に行動に移せるようになると考えます。その考え方を基本としながら、具体的な行動をコーチングの中で明確にしていくことが、コーチングの効果を最大限に引き出すポイントとなります。(5) 振り返りと改善コーチングでは、振り返りをしっかり行い、それを基に行動を改善することも非常に重要です。継続的にコーチングの振り返りを実施することで、これまでにどのような進展があったかを共に確認し、本人は客観的に自分の状況を把握する機会を得ることができます。良い未来に近づくためには、意味のある行動とその振り返りが欠かせません。その意味で、コーチングの特徴のひとつである「継続性」は、やりっぱなしではなく、コーチとクライアントが、一緒に振り返りと改善のプロセスを踏むことの重要性を示しています。クライアントはセッションとセッションの間に、自分で決めた行動に取り組んでいます。この取り組みについて効果的な振り返りを行うと、本人は必要に応じて軌道修正を行う機会になります。誰しも順調な時もあればつまずくときもあります。大事なことは、どんなことでも一緒に振り返ることです。コーチの支えのもとで振り返ってみれば、その後も自律的に課題に取り組む意欲を持ち続けることができます。なお、コーチングでは、つまずきや失敗も成長の一部と捉えます。つまずきも失敗も、本人が新たな一歩を踏み出したからこそ得られる貴重な経験です。つまずいた時点で終わってしまうのは非常にもったいないことです。振り返りの中で、そのつまずきや失敗を分析して学び、意味を見出し、さらに新しい行動や戦略につなげることで、本人の持続的な成長力が一層強化されます。2. まとめコーチングは、クライアント自身が主体的に動き、成長していくためのパートナーシップです。今回紹介した5つのステップを丁寧に踏むことで、クライアントは自分の可能性に気づき、実際に望む未来へと近づいていくことができます。コーチはそのプロセスに寄り添い、質問を通じて気づきと行動をサポートする存在です。もし誰かの成長を支援したいと考えているなら、ぜひこのステップを意識しながら関わってみてください。コーチングの力が、きっと新たな変化を生み出してくれるはずです。監修者プロフィール中原阿里:ICF国際コーチング連盟プロフェッショナルサーティファイドコーチ(PCC)、弁護士、公認心理師、上級心理カウンセラー、ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ代表、CLARIS法律事務所代表弁護士、法務博士。奈良女子大学英文科英語英文学科卒業、関西学院大学大学院司法研究科修了、米国イェール大学Science of Well-Being Course修了。弁護士として活動しつつ、2019年ウェルビーイングのためのアカデミックなコーチングスクール「ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ」を設立。創立以来講師を務め多くのコーチを育成しながら、上場企業からNPO法人、大学、裁判所まで幅広い対象にコーチング研修を提供。現役の弁護士かつプロコーチとしても多数のクライアントを支援する。著書に「弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル」(日本加除出版)など。最終更新 2025年4月15日■関連記事・コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説・コーチングを学ぶ最適の方法は?自分にあう学習法やスクールの選び方を紹介・コーチングの効果的な勉強法は?学び方やおすすめのスクールの選び方について・【コーチングの質問とは?】質問の具体例をまとめた保存版リスト|避けるべき例も紹介・質問の価値を高めるコーチングスキル傾聴とは?NG例もあわせて解説・【2025年】国際コーチング資格取得について:特徴や選び方をまとめて解説・ウェルビーイングコーチングとは:意味や資格について徹底解説■人気記事・メンタリングとコーチングはどう違う?プロコーチが徹底解説・【GROWモデルとは?】コーチングの質問の型とすぐに使える具体的な質問例もあわせて紹介・コーチングの学びに自己理解が大切な理由とは?重要性と方法を解説・エゴグラムとは?5つの自我状態の特徴やコーチングへの活用法について解説