コーチとして、コーチングセッションをしているとき、質問を投げかけた途端、クライアントが黙ってしまった…。そんな経験はありませんか?頭の中が真っ白になったり、「この質問は、難しすぎたかな?」「言い方がよくなかった?」「何か気を悪くさせたかも…」と焦りや不安がよぎることもあるかもしれません。本記事では、クライアントの沈黙の背景や、コーチが焦らず対応するためのヒントを解説していきます。沈黙を怖がらず、味方につける力を一緒に磨いていきましょう。1. 沈黙の背景を理解するコーチングセッションの中でクライアントが沈黙するとき、クライアントの頭の中でなにが起こっているかを理解することがまずは大切です。だいたいは、下記の内容に大別されるででしょう。質問をじっくり考えている質問を受けて、普段あまり考えたことのないテーマについて内省している最中である。言葉にできていない思考は進んでいるけれど、それをどう表現したらよいか整理がついておらず、言葉にする段階で止まっている。質問がよく分からなかったコーチの質問の意図や内容が伝わっていなかったり、聞き漏らしてしまっていた。答えたくない内容だったコーチの質問が、クライアントの心の深い部分に触れるテーマであったり、コーチとの信頼関係が十分でない段階での繊細な質問で、クライアントが答えたくがないための沈黙である。性格的な特性もともと、問いに対して、すぐに答えを出さずに、熟考してから話すタイプ。このように、沈黙には「ネガティブな反応」という一面だけでなく、「考えている」「感じている」「準備している」というポジティブな要素も含まれています。だからこそ、沈黙が必ずしも何かがうまくいっていない、とは限りません。むしろ、コーチとして大切なのは「この沈黙の裏で、どんなことが起きているのだろう?」という視点を持つことです。2. やってしまいがちなNG対応沈黙が続くと、コーチとしてはつい「何か言わなくちゃ」と焦ってしまうことがあります。ですが、その焦りから出た対応が、かえってクライアントの思考を妨げてしまうこともあります。たとえば、こんな対応をしていませんか?質問を説明し直してしまう焦って、「さっきの質問はですね、○○という意味で…」と、質問の内容について補足してしまう。説明を加えることでクライアントの自由な思考を狭めてしまう可能性がある。選択肢を提示する「AとBがあると思うんですが、どちらですか?」と例を出す。クライアントの内側から生まれてくる答えを妨げてしまう。別の質問に切り替える「じゃあ、次の質問にいきましょうか」と、強制的に思考を止めて、別の質問をしてしまう。せっかくクライアントが考え始めたプロセスを中断してしまうかもしれない。謝る 「ごめんなさい、私の質問が分かりづらかったですよね」と謝ってしまう。場の雰囲気を急に崩したり、クライアントの思考を妨げる。自分や他人の話をしてしまう「私だったらこうしますね」「〇〇さんはこうしていました」と、自分や他人の例を持ち出してしまう。コーチングというよ一方的なアドバイスになりNG。こうした反応は、どれも「沈黙を埋めよう」とする行動です。でも実はその沈黙こそが、クライアントにとって大切な内省の時間であることを、つい忘れてしまうんですね。大事なのは、沈黙に対して「どうにかしよう」とするのではなく、「今、クライアントになにが起きているのだろう」と考える視点です。3. 沈黙に対する正しい対応法では、具体的には、クライアントが沈黙したときには、どのような対応をとればいいのでしょうか。1. まずは、黙って待つ何より大事なのは、「待つ」ことです。コーチが焦って話し始めると、その焦りが雰囲気として伝わり、クライアントも「何か言わなきゃ」とプレッシャーを感じてしまいます。クライアントが考えている最中であれば、静かに待つ。それだけで、深い内省が促されることがあります。2. 安心感を与えるひと言を添える完全に黙っていることが負担になる場面もあります。そんな時は、やさしく一言添えるのも効果的です。たとえば、「ゆっくり考えて大丈夫ですよ」「どんなことでも構いません。思いつくままにどうぞ」といった言葉は、クライアントに安心感を与え、沈黙へのプレッシャーを和らげます。3. 必要に応じて、やさしく問いかける沈黙が長く続くときや、明らかに戸惑っているように見えるときは、やさしい問いかけを加えるのも有効です。たとえば、「今、どんなことが頭に浮かんでいますか?」「何か言葉になりそうなことはありますか?」このような問いは、クライアントの内省をサポートし、思考の流れを取り戻す手助けになります。4. 「黙る=待つ」ではないことを理解する「沈黙に対して待つ」とは、単に口を閉じて黙っていることだけを指すわけではありません。クライアントが考えやすい空気を保ち、問いかけや安心感を通じて内省を支えるすべての行為が「待つ」の一部です。つまり、本章で紹介した関わり方すべてが「待つ」の実践です。4. まとめ:沈黙を味方にしようコーチングセッションで訪れる沈黙は、決してネガティブなものではありません。むしろ、クライアントが自分自身と深く対話し、これまで言語化されなかった思いや気づきを見つけ出す、大切な時間です。焦って質問を言い換えたり、すぐに話題を変えたくなる気持ちもあるかもしれません。しかし、コーチが「待つ」姿勢をもつことで、クライアントは安心して考え、自分のペースで言葉を紡いでいけます。沈黙は、コーチとクライアントの信頼関係があるからこそ成立する“豊かな時間”。コーチとしてその沈黙を恐れず、受け入れ、信じて待つこと。それこそが、質の高いセッションを生む土台となるのです。監修者プロフィール中原阿里:ICF国際コーチング連盟プロフェッショナルサーティファイドコーチ(PCC)、弁護士、公認心理師、上級心理カウンセラー、ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ代表、CLARIS法律事務所代表弁護士、法務博士。奈良女子大学英文科英語英文学科卒業、関西学院大学大学院司法研究科修了、米国イェール大学Science of Well-Being Course修了。弁護士として活動しつつ、2019年ウェルビーイングのためのアカデミックなコーチングスクール「ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ」を設立。創立以来講師を務め多くのコーチを育成しながら、上場企業からNPO法人、大学、裁判所まで幅広い対象にコーチング研修を提供。現役の弁護士かつプロコーチとしても多数のクライアントを支援する。著書に「弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル」(日本加除出版)など。最終更新 2025年4月16日■関連記事・コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説・コーチングの学びに自己理解が大切な理由とは?重要性と方法を解説・【コーチングの質問とは?】質問の具体例をまとめた保存版リスト|避けるべき例も紹介■人気記事・【GROWモデルとは?】コーチングの質問の型とすぐに使える具体的な質問例もあわせて紹介・ICFコーチング資格の難易度比較|ACC・PCC・MCCの取得要件と実践のポイント・ウェルビーイングコーチングとは:意味や資格について徹底解説