エゴグラムは、自分の性格や行動パターンを客観的に理解できる診断ツールとして、多くの人に利用されています。最近では、コーチングはもちろん、ビジネスの場面にも活用されており、聞いたことがある方も多いかもしれません。そこで、本記事では、エゴグラムがどのような診断ツールであるか、コーチングでの活用方法、5つの自我状態の特徴や、エゴグラムを理解するメリットについて詳しく解説します。目次1. コーチングの目的と成長個人の成長を促すコーチングは、自分自身が自分の可能性に気がつくチャンスにつながります。また、マネジメント層からすれば、部下やメンバーが自身の潜在能力に気づき、それを最大限に発揮できるよう支援する技術になります。目標設定から達成までのプロセスをサポートすることで、個人の主体性やモチベーションを高め、仕事におけるパフォーマンスの向上に貢献します。現在の育成では、単に指示を与えるだけでなく、相手が自ら考え、行動する機会を与えることが重要です。ビジネス事業の場では、このやり方により、社員が問題解決能力を向上させ、企業にとってより価値ある人材へと成長します。教育や子育てでは、本人の可能性を広げて自発性を育むかかわり、個人の成長を幸せに結びつく関わりが、まさにコーチングです。組織全体の課題を解決する組織の場合は、コーチングを導入することで、全体の課題解決にもつながります。部下が主体的に仕事に取り組むことで、管理職の負担が軽くなり、関係性も良くなります。ひいては全体の生産性が向上する組織開発となります。また、社員一人ひとりのモチベーションが高まることで、会社全体の目標達成への意識が向上し、より高い成果を生み出す組織へと変化していきます。これは、企業が持続的に成長していく上で必要不可欠な要素です。2.コーチングの手法:ティーチングとの違いコーチングとティーチングは混同されがちですが、その目的と手法は大きく異なります。ティーチングティーチングは、知識や技術を教えることに焦点を当てます。教師や上司が持つ知識や経験を部下や生徒に伝え、理解させることを目的とします。指示や命令が中心となり、答えを与える形式が一般的です。例えば、新しい技術や制度の説明、営業の具体的なトークスクリプトを教えるなどがこれに該当します。短期間で特定の知識を習得させる必要がある場合に有効な手法です。コーチング一方、コーチングは部下やメンバーが自ら答えを見つけ、解決策を導き出すことを促します。コーチは質問を投げかけ、傾聴し、相手の内側にある考えや感情を引き出す役割を果たします。具体的には、目標設定のサポート、課題解決のための思考プロセスの促進、モチベーションの維持などが含まれます。これにより、部下は自分の頭で考え、主体的に行動する能力を高めることができます。3.コーチングに必要なスキルと姿勢コーチングを効果的に行うためには、以下のようにいくつかの重要なスキルと姿勢が求められます。傾聴相手の話を注意深く、共感的に聞くことは、コーチングの基本です。言葉の内容だけでなく、声のトーンや表情、姿勢などから相手の感情や意図を読み取る能力が必要です。これにより、相手は自分が理解されていると感じ、信頼関係が構築されます。傾聴は、相手の本音を確認し、心に秘めた真の課題を引き出すための最も重要な手法です。 質問力相手の思考を深め、気づきを促すためには、適切な質問を投げかける能力がなくてはならないものです。「なぜそう思うのですか?」、「具体的にどうしたいですか?」、「他にどのような選択肢が考えられますか?」といったオープンな質問を用いることで、相手は自らの内面と向き合い、解決策を見つけ、選択するためのヒントを得ます。質問は、相手の可能性を引き出すための強力なツールなのです。承認とフィードバック相手の努力や成果を認め、承認することは、モチベーションを高める上で極めて重要です。ポジティブなフィードバックは、相手の自信を育み、さらなる成長を促します。自己肯定感や自己効力感の向上にも直結します。また、フィードバックは、一方的な評価ではなく、相手の成長をサポートするための対話の機会と捉えて、丁寧に向き合いましょう。信頼関係の構築コーチングは、コーチとクライアントの間に強固な信頼関係、ラポールがあってこそ成り立ちます。相手の話を真剣に聞き、共感し、公平で対等な立場で接することで、信頼関係は深まります。時間をかけて関係を構築し、相手が何でも話せ、相談できる存在になることが実りあるコーチングへの大きな鍵です。4.エゴグラムとコーチングの関連性:自己理解が導く成長ここで、エゴグラムという自己分析ツールについて掘り下げ、それがコーチングにどのように役立つかを説明します。エゴグラムは、個人の内面を深く探り、自己理解を促進することで、コーチングの質を高める強力な手段となります。(1) エゴグラムとはエゴグラムとは、アメリカの精神科医エリック・バーンが提唱した交流分析(Transactional Analysis, TA)をもとに、ジョン・M・デュセイが体系化した自己分析のアセスメントツールです。人の心の状態を「5つの自我状態」に分類し、行動や思考のパターンを可視化することで、自己理解を深めることができます。エゴグラムは、幼少的の親、あるいは親的な立場の人との関わりが心理状態の大きく影響するという前提にたっています。自分の思考や感情の源がどこにあるのかを探る機会を与えてくれるため、単純な性格診断ではなく、自己理解のための奥深い技法ともいえます。現在ではコミュニケーションの改善、コーチングの現場、人材育成など幅広い分野で活用されています。エゴグラムを通じて自分の特性を知ることで、より良い人間関係を築き、個人としての成長につなげることができます。これは、自分の強みと弱みを明確にし、行動の傾向を客観的に見る助けともなるのです。(2) エゴグラムの5つの自我状態:あなたの心の構成要素5つの自我状態は、それぞれ外部に出している心的エネルギー量を表しており、CP(批判的/支配的な親)、NP(養育的な親)、A(成人・合理性)、FC(自由な子ども)、AC(順応する/しない子ども)にわけられます。さまざまな各要素のバランスが、その人の個性や対人関係における反応を形成します。それぞれの特徴について、下記で詳しくみてきましょう。CP(批判的/支配的な親):ルールや厳格さを重視する側面ポジティブな側面としては、相手を思い、教育的に相手の成長や安全を本気で考えて導く行動が挙げられます。責任感が高く、規律を重んじる姿勢は、組織の秩序維持に貢献します。リーダーシップを率先してとることも多いでしょう。ネガティブな側面としては、厳しく叱ったり非難して相手の力や可能性を低く見積もる行動につながる可能性があります。こうあるべきだという思い込みが強い時もあり、過度になると、相手を萎縮させ、モチベーションを低下させる要因にもなります。NP(養育的な親):思いやりや優しさが強い側面ポジティブな側面としては、心から相手を思いやり、悩みを聞き、親身に世話をする行動が挙げられます。自然と相手を助けることができる力です。サービス精神が高いとも言えます。共感力も高く、相手の感情に寄り添い、積極的にサポートする能力は、信頼関係の構築に大いに役立ちます。ネガティブな側面としては、相手を思うあまり、過保護・過干渉になり、相手の力や自立心を損なう行動につながる可能性があります。自分の関わる人、例えば、子どもや部下の成長の機会を奪い、自ら考える能力を抑制してしまう可能性には注意が必要です。A(成人・合理性):冷静で論理的に判断する側面ポジティブな側面としては、何事も冷静かつ論理的に分析し、客観的な情報に基づいて判断する行動が挙げられます。感情に流されにくく問題解決能力が高く、合理的な意思決定を行います。仕事の計画や実行において中心となる機能です。ネガティブな側面としては、感情表現が控えめになりがちで、人間関係において冷淡な印象を与える可能性があります。何を考えているのか周りにはわかりにくく、感情の共有が不足することで、相手との共感が生まれにくい点もあります。ややロボット型の感じもあります。FC(自由な子ども):創造的で感情を素直に表現する側面ポジティブな側面としては、自由な発想を持ち、ワクワクとした感情豊かで未来に向け、希望を抱く純粋な子どものような行動が挙げられます。新しいアイデアを生み出す力、モチベーションの源となります。未来を活き活きと語り、ポジティブな雰囲気を作り出す役割も担います。ネガティブな側面としては、幼い子供のように、自分の気持ちに正直で、思うままに行動しがちで、計画性や責任感に欠ける可能性があります。時として、向こう見ずで衝動的な行動が問題を引き起こす可能性もあります。AC(順応する/しない子ども):周囲に適応しようとする側面(周囲に過度に反応する側面)ポジティブな側面としては、相手の意向や、社会のルールに従い、協調性を持って行動する能力が挙げられます。自分の意思よりも、相手の期待に応えようとする姿勢は、円滑な人間関係を築く上で、またその場を難なくおさめるためには大いに役立ちます。いわゆる「いい人」的な振る舞いをすることがしばしば見られます。ネガティブな側面としては、周囲に合わせすぎて、自分の意見を言えずストレスを抱えたり、不満を溜め込んでしまう可能性もあります。過剰な従順さが見られ、周囲が困惑することもあります。なお、親の期待に従わない行動を、「反抗的な子ども」として捉える考え方もあるように、社会や周囲に対して過度な反抗を取る場合もあります。これらの5つの自我状態は、個人の中で常に相互作用しており、状況に応じて優位に立つ状態が異なります。エゴグラムは、これらの状態の強弱をグラフ化し、視覚的に把握できるようにします。5. エゴグラムを理解することで得られるメリットエゴグラムは、自己理解を深めるだけでなく、他者理解にも大きく貢献します。(1) 自分の思考・行動パターンを理解できるエゴグラムは自分の思考や行動パターンを可視化するものなので、自分がどのような状況でどのような反応を示すかを理解する一助となります。例えば、CPが高い人は厳しくなりがち、FCが高い人は自由奔放になりがちといった傾向が見られます。そのため、無意識のうちに繰り返している行動を論理的に理解でき、より効果的に自分自身をマネジメントできるようになります。自分の得意なパターンを認識し、苦手なパターンを改善するための具体的な一歩を踏み出すきっかけを与えます。人は自分の中に異なる側面を部分的に持ち合わせています。これを理解し、継続的にセルフコントロールができることは、なかなか難しいことですが、エゴグラムを使うことで、自己認識を高め、自己成長を促す上で不可欠な点です。(2) 人間関係の改善につながるエゴグラムを理解することで、自分だけでなく、他人の思考や感情を理解する手助けにもなります。相手の行動はあのエゴグラムに結びついているのかと理解できると、衝突や誤解が軽減し、より良い関係性を築けるようになります。例えば、部下がA(成人・合理性)の要素が強い場合は、論理的な説明や提案が響きやすく、NP(養育的な親)が強い上司には、共感を示しながら話すことが有効です。また、自分自身がAが高ければ、相手に感情的な側面をより伝えることで、コミュニケーションがスムーズになります。NPが高ければ、先に手助けする前に相手の成長を見守るプローチを意識する、など実際に工夫が可能になるのです。特に親子関係や、仕事での上司と部下、同僚間のコミュニケーションにおいて、相手が抱える特性を把握することで、言葉の選び方や接し方を調整し、互いにとって良好で円滑な人間関係を構築できます。これは、信頼関係を構築し、チームワークを高める上で極めて重要な要素となります。6. ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジでのエゴグラムの位置づけラッセルウェルビーイングコーチングカレッジでは、自己理解を非常に大切にしています。コーチングをする上で、コーチが自己理解を深めておくことは、クライアントに対して適切な問いを立てるために最も重要なことだからです。自分がどのような自我状態を持ち、それがコーチングセッションにどう影響しうるかを認識することで、より客観的で効果的なコーチングプロセスを提供できます。そのため、自己理解の一助となるエゴグラムをベーシッククラスのプログラムに取り入れています。具体的には、ベーシッククラスの第3講座で、エゴグラムを扱います。受講生の方は、無料でエゴグラム診断を受けることができ、自分の思考や感情、行動パターンを客観的に知ることができます。それを学んだうえで、授業内のコーチングワークを通して、他者との違いを認識し、多様な価値観を受け入れながら、コーチングスキルを育んでいきます。個人がコーチとして活躍する際に必要不可欠な専門知識と技術の習得をサポートします。7. まとめコーチングは、単なる指導ではなく、相手一人ひとりの潜在能力を引き出し、可能性を最大化させるためのスキルです。傾聴、質問力、承認といったスキルを高めることで、相手の成長や豊かな人生の幸せの実現を強力にサポートできます。それは簡単ではありませんが、学べば必ず習得できるスキルです。エゴグラムは、自己理解を深め、思考や行動パターンを可視化するための強力なツールです。自分自身の特性を把握することで、より良い人間関係を築き、成長を促進できます。ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジでは、エゴグラムを活用したコーチング学習を通じて、受講生が自己理解を深め、他者理解を育む手助けをしています。コーチングを学ぶ上で、自己理解は欠かせない要素です。新たにエゴグラムを学んで使うことで、さらに効果的なスキルを身につけて引き出しを増やすことができ、自分も周囲も一緒に良い関係をきずいていけるようになります。コーチングを学びたい方のため、国際レベルのプログラムの概要案内をお伝えするオンラインの無料説明会も実施しております。どうぞお気軽にご参加ください。無料説明会はこちらからご覧ください。監修者プロフィール中原阿里:ICF国際コーチング連盟プロフェッショナルサーティファイドコーチ(PCC)、弁護士、公認心理師、上級心理カウンセラー、ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ代表、CLARIS法律事務所代表弁護士、法務博士。奈良女子大学英文科英語英文学科卒業、関西学院大学大学院司法研究科修了、米国イェール大学Science of Well-Being Course修了。弁護士として活動しつつ、2019年ウェルビーイングのためのアカデミックなコーチングスクール「ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ」を設立。創立以来講師を務め多くのコーチを育成しながら、上場企業からNPO法人、大学、裁判所まで幅広い対象にコーチング研修を提供。現役の弁護士かつプロコーチとしても多数のクライアントを支援する。著書に「弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル」(日本加除出版)など。最終更新日 2025年8月7日■関連記事・コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説・コーチングを学ぶ最適の方法は?自分にあう学習法やスクールの選び方を紹介・【コーチングの質問とは?】質問の具体例をまとめた保存版リスト|避けるべき例も紹介・【2025年】国際コーチング資格取得について:特徴や選び方をまとめて解説・ウェルビーイングコーチングとは:意味や資格について徹底解説・コーチに向いている人とは?ーコーチングの特徴と習得すべき3つのスキルを解説ー■人気記事・ー2025年版ー【プロコーチが選ぶ】コーチングの学びにおすすめ本7冊と効果的な学び方とは・【GROWモデルとは?】コーチングの質問の型とすぐに使える具体的な質問例もあわせて紹介・コーチングの学びに自己理解が大切な理由とは?重要性と方法を解説