「コーチングって、何をするものなのかよく分からない」「うまくできている気がしない」——。コーチングを学び始めたばかりの方が感じるこのような不安は、決して特別なことではありません。特に、セッションの中でクライアントとの信頼関係をどう築くかは、多くの初心者が悩むテーマのひとつです。コーチングでは「クライアントの中に答えがある」という前提に立ちます。だからこそ、コーチが一方的に導こうとしたり、アドバイスをしてしまったりすると、その“対等な関係性”が崩れてしまい、クライアントは心を閉ざす可能性があります。これはつまり、信頼関係の損失=コーチングの効果が発揮されないということ。とてももったいないことですよね。この記事では、そんな事態を避けるために、コーチング初心者が陥りやすいNG行動を4つご紹介します。それぞれのNG行動には理由があり、「なぜそれがNGなのか」「どんな影響があるのか」「どうすれば信頼関係を築けるのか」も併せて丁寧に解説します。目次1. NG行動①:アドバイスしてしまうコーチング初心者が最もやりがちなNG行動が、「アドバイスをしてしまう」ことです。クライアントが困っている様子を見たり、「どうしたらいいかわからない」と口にしたとき、つい助けてあげたくなるのは自然な反応です。特に、キャリアや子育て、マネジメントなど自分に経験がある分野であれば、思わず「私のときはこうだったよ」「こうしたらどうかな?」とアドバイスしたくなるものです。しかし、コーチングではコーチが答えを与えるのではなく、クライアントの中にある答えを引き出すことが大前提。アドバイスをしてしまうと、クライアントは「この人に正解を委ねればいいんだ」と受け身になってしまい、自分の意思や考えを深めるチャンスを失ってしまいます。また、コーチの意見に引っ張られてしまい、自分にとって本当に大切なことを見失ってしまうリスクもあります。さらに、クライアントによっては「否定された」と感じたり、「わかってもらえない」と心を閉ざしてしまうこともあります。これは信頼関係を損なう大きな要因です。1.1 アドバイスの代わりにするべきこと大切なのは、「助ける」のではなく「信じる」ことです。「この人は自分自身で答えを見つける力がある」と信じて、問いかけを通じて内省を深めてもらう関わり方が、コーチとしての本質的な姿勢です。たとえば、「今、自分ではどんな選択肢が思い浮かんでいますか?」「どんな状態になったら、うまくいっていると感じられそうですか?」といった質問を通して、クライアント自身の内面に目を向けてもらうことで、自然とその人らしい答えが導き出されていきます。2. NG行動②:沈黙に耐えられず話しすぎるコーチングのセッション中、クライアントが黙ってしまう瞬間があります。そんな時、初心者のコーチがよくやってしまうのが、「沈黙=よくないこと」と捉えて、自分から話し始めてしまうことです。「何か質問しなきゃ」「間が持たない」「この人を困らせてはいけない」そんな焦りから、つい口を挟んでしまう。でもそれこそが、クライアントの大切な内省の機会を奪ってしまうNG行動なのです。2.1 沈黙は“思考が深まっている証拠”コーチングでは、沈黙は悪いことではありません。むしろ、クライアントが自分の内側を探っている時間です。頭の中で考えを整理し、自分にとって本当に大切なことを見つけようとしているサインかもしれません。コーチが焦って沈黙を埋めてしまうと、その探求を中断させてしまうことになります。「もっと深く考えられたかもしれないのに、途中で止められた」とクライアントが感じると、コーチに対する信頼感も損なわれかねません。2.3 沈黙のときにするべきこと沈黙が訪れたら、まずは安心して“待つ”ことが大切です。「この沈黙には意味がある」と信じて、言葉を挟まずにクライアントが考えを深めるのをサポートしましょう。時には軽くうなずいたり、「今、何を感じていますか?」といった問いかけで、その沈黙の質を尊重する姿勢も効果的です。また、セッションの後に「沈黙の時間、何か気づいたことはありましたか?」と振り返ることで、クライアントにとっての価値ある時間だったと再確認してもらえることもあります。3. NG行動③:相手の感情を受け止めきれないコーチングの場では、クライアントが感情を揺らしながら本音を語ることがあります。悔しさ、怒り、不安、悲しみ……こうした感情に触れたとき、初心者のコーチがやりがちなのが、「どうリアクションすればいいか分からず、スルーしてしまう」ことです。たとえば、クライアントが涙ぐんだ時に、焦って話題を変えてしまったり、無理に明るい方向に話を持っていこうとしたり。これは、相手の感情を受け止めることを避けたNG行動です。3.1 感情は“変化の入口”になる感情は、クライアントの本質的な価値観や欲求に直結しています。特に強く揺れ動く感情の裏には、その人が本当に大切にしているものが潜んでいます。コーチがその感情をしっかり受け止め、共感を示すことで、クライアントは「ここでなら、どんな自分でも出していい」と感じ、信頼関係が深まります。逆に、感情を無視されると、「この人には本音を出せない」と心を閉ざしてしまうことにもつながります。3.2 クライアントの感情に対峙するときにすべきことクライアントが感情を表現したときは、まず静かに受け止めることを意識しましょう。焦って何か言おうとする必要はありません。「今、強く感情が動いているようですね」といった共感の言葉を添えるだけでも、クライアントは大きく安心できます。また、感情を丁寧に扱うことで、「なぜその感情が湧いたのか?」「そこからどんな価値観が見えてくるか?」といった深い探求につなげることができます。4. NG行動④:クライアントを“正そう”とする初心者コーチがよく陥るのが、「クライアントの考え方や行動を“正しい方向”に導こうとしてしまう」ことです。たとえば、「それはこうした方がいいですよ」「その考え方はちょっと違うかも」「普通はこうしますよね?」など、自分の価値観や正解を押し付けるような発言をしてしまうことがあります。これは、コーチングの基本的なスタンスから外れたNG行動です。4.1 正解はクライアントの中にあるコーチングの前提は、「こたえはクライアントの中にある」という考え方です。コーチはあくまで、クライアントの思考や感情を整理し、自分の力で“気づき”を得られるようにサポートする立場です。コーチが「それは違う」「こうすべき」といった判断をしてしまうと、クライアントは萎縮してしまい、自由に発言できなくなります。また、コーチが“上から目線”だと感じられれば、信頼関係にもヒビが入ってしまいます。4.2 コーチとしてすべきことクライアントの発言に対して、すぐに「正解・不正解」「良い・悪い」とジャッジせず、まずはその考え方がどこから来ているのかを探る問いを投げかけましょう。たとえば:「そう思った背景にはどんな経験があるんでしょうか?」「その考えに、どんな意味や価値を感じていますか?」「仮に今の考えを手放すとしたら、どんなことが起こりそうですか?」このように、答えを与えるのではなく、考えるヒントを渡すことが、コーチとしての役割です。まとめ|初心者コーチが意識したいことコーチングは、「相手の可能性を信じ、内側からの答えを引き出す」繊細で深い対話のプロセスです。初心者のうちは、良かれと思ってやっていることが、実はクライアントの気づきや信頼関係の妨げになっていることもあります。今回ご紹介したNG行動はどれも、初心者がつまずきやすいポイントですが、気づいたときから修正できることばかりです。そして、それをひとつひとつ丁寧に見直していく過程そのものが、コーチとしての成長につながります。大切なのは、「自分がどう見られるか」ではなく、クライアントの気づきと選択をどれだけ尊重できるか。そのためには、コーチ自身も柔軟で、丁寧に対話を重ねていく姿勢が求められます。コーチングの技術はもちろん、“あり方”の磨きこそが、信頼されるコーチへの第一歩です。ぜひ今日から、自分のセッションを振り返り、よりよい関係構築に活かしていきましょう。監修者プロフィール中原阿里:ICF国際コーチング連盟プロフェッショナルサーティファイドコーチ(PCC)、弁護士、公認心理師、上級心理カウンセラー、ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ代表、CLARIS法律事務所代表弁護士、法務博士。奈良女子大学英文科英語英文学科卒業、関西学院大学大学院司法研究科修了、米国イェール大学Science of Well-Being Course修了。弁護士として活動しつつ、2019年ウェルビーイングのためのアカデミックなコーチングスクール「ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ」を設立。創立以来講師を務め多くのコーチを育成しながら、上場企業からNPO法人、大学、裁判所まで幅広い対象にコーチング研修を提供。現役の弁護士かつプロコーチとしても多数のクライアントを支援する。著書に「弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル」(日本加除出版)など。最終更新 2025年7月23日■関連記事・コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説・コーチングを学ぶ最適の方法は?自分にあう学習法やスクールの選び方を紹介・【コーチングの質問とは?】質問の具体例をまとめた保存版リスト|避けるべき例も紹介・【2025年】国際コーチング資格取得について:特徴や選び方をまとめて解説・ウェルビーイングコーチングとは:意味や資格について徹底解説・コーチに向いている人とは?ーコーチングの特徴と習得すべき3つのスキルを解説ー■人気記事・ー2025年版ー【プロコーチが選ぶ】コーチングの学びにおすすめ本7冊と効果的な学び方とは・【GROWモデルとは?】コーチングの質問の型とすぐに使える具体的な質問例もあわせて紹介・コーチングの学びに自己理解が大切な理由とは?重要性と方法を解説