ポジティブストロークという言葉をご存知でしょうか。実はウェルビーイングなコミュニケーション&心理的安全性の形成に欠かせない、大事なキーワードです。今日は,ウェルビーイングに関連の深いポジティブストロークの効用と、どんな関係でも使えるポジティブストロークタイムのとりかたについて語ります。普段の仕事でも、ゴールデンウイークでご家族と過ごす際にも、おすすめの方法です。ストロークと交流分析ここでいう「ストローク」とは心理学の一派である「交流分析」から生まれた心理学用語です。交流分析は、1950年代後半に、精神科医であるエリック・バーン(Eric Berne)が築いた理論です。交流分析自体が対人関係のアップデートにとても有用な理論なのですが、そのなかでも、今日は「ストローク理論」を取り上げます。「ストローク理論」において基本となる考え方は、人の交流は全てストロークとディスカウントのどちらかに分けられるというものです。ストロークってなに?ストロークとは、「相手の存在を認める全ての言動」を指します。そして、ストロークには「ポジティブストロークとネガティブストローク」の2つがあります。ポジティブストロークとネガティブストロークポジティブストロークとは、その内容が肯定的な意味をもつもの。「おはよう」「いいね」笑顔を見せるハグ話をきちんときく愛情を伝える何か落とした時にさっと拾ってあげる仕事を手伝う手伝ってもらったら「ありがとう、助かったよ」と伝えるこれらはすべてポジティブストロークです。これに対して、ネガティブストロークとは、相手のためではあるが、その内容が否定的なものです。なお、ネガティブストロークは、ネガティブフィードバックとかなり近いです。ただ、フィードバックは「ある目標に対しての現在地点や達成度を伝える」ものです。これに対して、ストロークは特定の目標を意識する必要はなく、シンプルに相手を思って伝える言葉たちです。「この計算は間違ってるね」「眠いけど歯磨きしようね」「背中が曲がってるよ、伸ばしていこう」「シャツが裏返しだよ」などなど。ネガティブストロークは、受け取る側からすれば、一見ネガティブな指摘や指示的な意味もあるでしょう。しかし、言われて初めて気が付くこともあり、発見や気づきにつながる有益なメッセージです。また、ネガティブストロークを伝える側からすれば、相手のミスなどを指摘することでもあり、言いにくい時もあるでしょう。しかし、放っておくことなく、相手にきちんと伝えること、そして、相手を尊重しつつ適切な表現を選んでしっかりと伝えることで、成長をもたらす信頼関係が育っていきます。この関係が,互いのウェルビーイングを支えていくわけです。ポジティブストロークの重要性についてさて、今日お伝えしたいのは、ポジティブストロークの重要性です。コロナ渦でのコミュニケーションの自粛・制限により、お互いに、小さなポジティブストロークを交わし合う機会が劇的に減りました。オフィスや学校での「おはよう」のやりとり帰りがけの「お疲れ様!」「あの資料よくできてたよなー」「そのランチ美味しそう!」「すごいな、そんなこともできるの?」店員さんに笑顔で「美味しいですねー」と声がけこんな何気ないやりとりは、すべてポジティブストロークです。コロナ渦で、自宅でのテレワーク、外出自粛などが続き、それまで自然発生的に交わされていたこれらのストロークのチャンスがたくさん失われてしまいました。そして、ストロークの喪失は「ディスカウント」です。ディスカウントとはディスカウントとは「相手の存在を認めないすべての言動」を指します。たとえば、以下の言動は、もちろんディスカウントです。中傷する物を奪う暴力をふるうしかし、ディスカウントはそれだけではありません。挨拶をしない返事をしない言うべきことを言わずにひっこめる笑顔を見せないこうした行為もすべてディスカウント、つまり、ストロークを出さずにいる状態はディスカウントになるわけです。とすると、テレワーク環境や、人に会わない状況は、それ自体がディスカウント状況になりがちだという大きな落とし穴。そして、ディスカウントを感じると、人は自己肯定感(自分にOKを出す力)や自己効力感(自分もできる!と感じる力)がすり減っていきます。ウェルビーイングの逆の状態です。こんな状態を打破するのが、経営者やマネージャー、そして、すべての大人たちの重要な役割なのです!じゃあ何する?ということで、いまこそ、あえてポジティブストロークを交わし合う場、ポジティブストロークタイムを作ってみてほしいのです。ポジティブストロークタイムをとるとどうなる?ポジティブストロークを渡しあうことで、お互いの幸福度が上がり、その関係性へのコミットも上昇します。家族が仲良くなるパートナーシップは強くなるチームのムードが改善されるその結果、離職率が下がります。ストロークが減ると、これの逆の現象が起きます。家族がぎくしゃくするパートナーシップが脆弱になるチームの空気が悪くなる離職率が上がるその相関性は極めてシンプルです。なぜなら、ストロークの欠如はディスカウント、相手の存在を認めないというメッセージそのもの。次第に疲弊がたまっていくのが自然な流れなのです。もし皆さんが上の良い状態,ウェルビーイングな関係を目指したいなら、ぜひポジティブストロークを交わしあう場・ポジティブストロークタイムを作ってください。ポジティブストロークタイムの作り方実際のポジティブストロークタイムの作り方はこんな感じです。たとえば、打ち合わせのオンラインMTGの終わりに、お互いに対するポジティブストロークを5つ書き出します。たとえばAさん、Bさん、Cさんの3人のMTGの場合はAさんがBさんへ5つ、Cさんへ5つのポジティブストロークを考えます。Bさんは、CさんとAさんへ。CさんはAさんとBさんへ、それぞれ5つずつ考えます(紙などに書いたほうがいいでしょう)例えば新しいメガネ、とても似合ってるねさっきのスライドめっちゃわかりやすかったいつも真剣に参加している姿勢にリスペクト感じる相槌をたくさんくれるから本当に話しやすいんだわラーメン食べる速さに密かに感動しているなど、どんなことでもOK。それぞれに書き出し終わったら、それを口頭でお互いに伝えます。Aさんに対して、Bさんが5つ、Cさんが5つ、自分の書いたポジティブストロークの言葉をはっきりと言葉に出して伝えるのです。ストロークを受け取る側は照れくさいかもしれません。しかし、ちゃんと相手の顔を見て笑顔でイエス!と受け取ってください。なお、中にはストロークを受け取りにくい人(またはそういう心理状態にある人)もいます。それでもOKです。そういう自分をメタ認知しながら、できるだけ言葉を素直に受け取って嬉しさを感じるようにしてみてください。斜に構えず素直であることは、自分が自分であることを支えるものです。伝える側も、最初は相当照れくさいかもしれません。そして、照れくさければ照れくさいほど、ストロークを渡すという行動と縁遠かったことを示します。逆に言えば、照れくさい人ほど、このような場の設定が必要なのです。場がなければ、やらないっていうことですから!ストロークタイムはどんな関係でも効果がある普段なら照れくさくて言えないようなことも、あえて場を設定して、ゲームのように伝えあうことが大事。こうした取り組みは、多くの職場では行われていませんし、家族間でも、カップルの間でも、あえては行われていないでしょう。しかし、その効果は絶大です。ゴールデンウイークなどに、家族同士でやってみるのもとてもおススメです!実は,夫婦や親子は、意外にも素直で優しいストロークが欠けやすい関係でもあります。ぜひ、場を設定してゲームのように楽しんでください。実際にやってみると、途中でなぜか涙が出てきたり、いつもは言えないような会話が展開されたり、いろんなことが起きるのも、ポジティブストロークタイムの良さであり、人のウェルビーイングの基礎にはあたたかいやりとりがあることを深く教えられます。また、スポーツチーム内でやってみると、お互いの信頼関係や結束力が高まりプレイの質が上がることを実感できるでしょう。もちろん,職場でもお勧めですよ。ポジティブストロークタイムは、どんな関係でも、ウェルビーイングを高めるデザインなのです。ウェルビーイングラボでも実践中です当ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジでは,コーチングを学ぶウェルビーイングコーチングプログラムの中でもこの理論に関する学習と実践を組み入れています。また,カレッジの修了生が集まるウェルビーイングラボでも、ポジティブストロークタイムを設けています!参加者さんを数人のブレイクアウトルームに組み分けし、ルーム内でお互いにポジティブストロークを伝えあうのです。これをやると、わずか数分でお互いの結束や信頼感がググっと高まります。単純な雑談もよいのですが,ポジティブストロークでは,その密度と速度が圧倒的に高いのが特徴です。そして時には思いもよらないポジティブストロークが飛んできて、自分の知らない自分の良さを教えてもらうことにもなります。また、実は!渡す側にも大いなるメリットがあるのが,この方法の素晴らしいところ。人は,相手にポジティブストロークを渡すことで、自分自身の幸福度が確実に高まります。感謝の念や尊敬の念を抱くことで、幸せホルモン・オキシトシンやセロトニンが分泌され、幸せになるように脳が設計されているのですね。これは,幸福学,ウェルビーイング研究の知見です。私もコーチング講師やファシリテーター(時には,いち参加者)として場に参加しますが、いつどんな時でも、言葉からエネルギーをもらえる素晴らしい、まさにウェルビーイングな時間だと実感します。ポジティブストロークシャワーの後にウェルビーイングが場と心にあふれ沁みわたる,そんな感じでしょうか。ポジティブストロークタイムでウェルビーイングに私たちの心は常に幸福・ウェルビーイングを望んでいます。しかし、それに向かって素直に行けないときもある、ウェルビーイングから遠ざかるトレンドに巻き込まれる時もあります。新型コロナウイルスの感染拡大、自分自身または家族の不調、仕事上のトラブル、思わぬアクシデント,そして絶えることのない自然災害・・・いろいろなことが起きるのが人生です。しかし、どんな時でも、ポジティブストロークの力で私たちは必ずウェルビーイングを取り戻し、高めることができます。たかが言葉、されど言葉。ぜひ、ポジティブストロークで自分と周りを満たして,いつどんなときも,みなさまがウェルビーイングでありますように。▶当カレッジは、ウェルビーイングのための本格的なコーチングクラスをご用意しています。コーチングの習得はもちろん,ポジティブストロークなどのスキルを身に着け、日々のコミュニケーションをウェルビーイングにアップデートすることができます。詳しくはウェルビーイングコーチングのページをご覧ください。著者プロフィール中原阿里:ICF国際コーチング連盟プロフェッショナルサーティファイドコーチ(PCC)、弁護士、公認心理師、上級心理カウンセラー、ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ代表、CLARIS法律事務所代表弁護士、法務博士。奈良女子大学英文科英語英文学科卒業、関西学院大学大学院司法研究科修了、米国イェール大学Science of Well-Being Course修了。弁護士として活動しつつ、2019年ウェルビーイングのためのアカデミックなコーチングスクール「ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ」を設立。創立以来講師を務め多くのコーチを育成しながら、上場企業からNPO法人、大学、裁判所まで幅広い対象にコーチング研修を提供。現役の弁護士かつプロコーチとしても多数のクライアントを支援する。2024年9月17日更新