コーチングセッションの中で、クライアントが話し始めたテーマから徐々に別の話題へと移っていくことは、決して珍しいことではありません。しかし、特に経験が浅いコーチほど、「最初に決めたテーマを最後までやりきらなければいけないのでは?」と戸惑いを感じることがあります。実際には、クライアントの思考や感情が深まることで、より本質的なテーマがセッションの途中で浮かび上がることはよくあることです。問題は、その変化にコーチがどう対応するか。テーマの変化自体が良い・悪いの話ではなく、そのときにクライアントとのパートナーシップをどう築けるかが、コーチとしての在り方を問われるポイントになります。このブログでは、「セッション中にテーマが変わったとき、どう対応すればいいのか?」という問いに対して、具体的な対応の選択肢と、クライアント中心の姿勢についてわかりやすく解説していきます。コーチとしてのあり方に自信を持ち、柔軟にセッションをリードするためのヒントを得たい方におすすめの内容です。目次1. テーマは変えてはいけない?よくある誤解「一度決めたテーマは最後まで貫くべき」と考える方は少なくありません。特に、真面目で誠実なコーチほど、セッションの冒頭にクライアントと合意したテーマに忠実であろうとし、「話が逸れた」「テーマがぶれてはいけない」と感じてしまうことがあります。しかし、コーチングにおいて大切なのは、クライアントの本当の課題や気づきを尊重することです。最初に掲げたテーマが、クライアントの今の思いや状況にそぐわなくなることは、決して珍しいことではありません。むしろ、話が深まるにつれて「本当に向き合うべきテーマ」が現れてくるのは、コーチングが機能しているサインとも言えます。テーマ変更=失敗、という考え方は、コーチがセッションの「正解」をつくろうとしてしまっている証拠かもしれません。大切なのは、あくまでクライアント中心の姿勢を忘れずに、今この瞬間に必要な問いや対話を選ぶこと。その柔軟性が、信頼関係を深め、より深い気づきと変容につながっていきます。2. セッション中にテーマが変わったときの3つの選択肢コーチングセッションの中で、話が進むにつれてクライアントの思考や感情が変化し、当初のテーマとは異なる課題が浮かび上がってくることがあります。そんなとき、コーチとしてどのように対応すればよいのでしょうか。考えられる選択肢は大きく分けて3つあります。(1) 最初のテーマを続ける最初に決めたテーマを最後まで貫くアプローチです。セッションに一貫性が生まれる反面、新たに現れたクライアントの本質的な課題に目を向ける機会を逃してしまうリスクがあります。結果として、クライアントが本当に向き合いたかったテーマを深掘りできないまま終わってしまう可能性もあるでしょう。(2) コーチが独断でテーマを変更するコーチが「こちらのほうが大事そうだ」と判断し、クライアントとの合意なしに話題を切り替えるアプローチです。一見、柔軟でクライアント思いに見えるかもしれませんが、これは大きな落とし穴。クライアントの意思を無視してテーマを変更することは、コーチングの基本原則である「クライアント中心」の姿勢に反します。信頼関係を損なうリスクさえあるため、避けるべき対応です。(3) クライアントと相談して合意のうえでテーマを変更する最も望ましい対応は、テーマの変更をクライアントと確認し、合意を得た上で進めることです。コーチが「今、新たなテーマが見えてきたように思いますが、このまま続けますか?それともテーマを変えて話していきますか?」と問いかけ、クライアント自身に選んでもらうことが大切です。これにより、クライアントの主体性が尊重され、対話もより深く、意味のあるものになります。コーチングは、コーチが主導するのではなく、クライアントと共につくりあげるプロセスです。テーマの変化はセッションの失敗ではなく、気づきが深まっている証。その変化をどう扱うかが、コーチングの質を大きく左右します。3. 柔軟な対話を生む問いと姿勢コーチングにおいて、セッションの流れやテーマの変化に対応するには、コーチの「姿勢」と「問いかけ」が重要なカギを握ります。とりわけ、柔軟な対話を育むためには、クライアントにとっての“今ここ”のリアリティを尊重し、どんな時も対等なパートナーとして関わる意識が求められます。テーマが途中で揺らいだり、変化の兆しが見えたとき、コーチが「どちらのテーマが良いか」を判断するのではなく、次のような質問が有効です。「あなたにとって、今一番大事にしたいのはどんなことですか?」「このテーマをこのまま続けますか? それとも、新しく見えてきたことについて話してみたいですか?」これらのオープンで中立的な問いを投げかけることで、クライアントの選択を促すことができます。こうした問いは、コーチの内面の姿勢——つまり「答えはクラインとの中にある」「クライアントが選ぶ力を信じている」「一緒に探求するパートナーでありたい」という在り方から自然と生まれてきます。逆に、コーチ自身が「導かなければ」「うまく着地させなければ」といった焦りや義務感を持っていると、問いも誘導的になりがちです。柔軟な対話とは、クライアントが自由に自分の内面を探れる場をつくること。問いの言葉以上に、その背後にあるコーチの信頼と余白が、クライアントに安心と主体性をもたらします。そしてそれこそが、コーチングにおける最も価値あるプロセスにつながっていくのです。4. まとめ:コーチは“かじ取り”しすぎないコーチングセッションにおいて、クライアントの話が進む中でテーマが変化するのは、よくある自然なプロセスです。それはむしろ、クライアントが内面を深く掘り下げている証拠であり、コーチングがうまく機能しているサインでもあります。このような場面で大切なのは、コーチが「セッションを正しく運ばなければ」と過度に“かじ取り”しようとしないことです。コーチがセッションの主導権を握りすぎると、クライアント中心の関係性が崩れ、クライアントの本音や可能性が閉ざされてしまうリスクがあります。だからこそ、テーマの変更が必要かどうかは、コーチが判断するのではなく、クライアントとの対話を通して合意を取ることが重要です。「今、何に一番焦点を当てたいですか?」という問いを通して、クライアントが自分の内側にアクセスし、自ら選択できるようサポートする。それがコーチの役割です。焦らず、決めつけず、クライアントの声に耳を傾ける。そんな柔らかい姿勢と信頼に満ちた関わりが、クライアントの変容を深く支えるコーチングをつくっていきます。コーチは“かじ取り役”ではなく、変化の波にともに乗るパートナーであることを、常に心に留めておきましょう。当カレッジの次期ベーシッククラスの開講(2025年9月スタート)にあたり、プログラム詳細を案内する無料説明会も実施中です。説明会参加者様だけの受講費用1万円割引特典もご用意しています。お気軽にご参加いただければ幸いです。説明会はこちらからお申込みいただけます。最終更新日 2025年6月11日監修者プロフィール中原阿里:ICF国際コーチング連盟プロフェッショナルサーティファイドコーチ(PCC)、弁護士、公認心理師、上級心理カウンセラー、ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ代表、CLARIS法律事務所代表弁護士、法務博士、ウェルビーイング経営アドバイザー。奈良女子大学英文科英語英文学科卒業、関西学院大学大学院司法研究科修了、米国イェール大学Science of Well-Being Course修了。弁護士として活動しつつ、2019年ウェルビーイングのためのアカデミックなコーチングスクール「ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジーRussell Well-being Coaching Collegeー」を設立。創立以来講師を務め多くのコーチを育成しながら、上場企業からNPO法人、大学、裁判所、弁護士会まで幅広い対象にコーチング研修を提供。現役の弁護士かつプロコーチとしても多数のクライアントを支援する。著書に「弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル」(日本加除出版)など。■関連記事・コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説・ー2025年版ー【プロコーチが選ぶ】コーチングの学びにおすすめ本7冊と効果的な学び方とは・【2025年】国際コーチング資格取得について:特徴や選び方をまとめて解説■人気記事・コーチングの効果的な勉強法は?学び方やおすすめのスクールの選び方について・【GROWモデルとは?】コーチングの質問の型とすぐに使える具体的な質問例もあわせて紹介・「コーチングを学ぶ最適な方法とは?コーチングの難しさと確実に学ぶ方法をプロコーチが解説:本格的に学びたい方向け