「90分セッションの中で、テーマ設定に10分以上かかってしまった…このままでいいのかな?」コーチとしてクライアントとのセッションを進める中で、こうした一抹の不安を抱えた経験は少なくないのではないでしょうか。特に、限られた時間の中でクライアントの成果を最大化したいと願う熱心なコーチほど、「テーマ設定に時間をかけすぎたかもしれない」「もっと早く本題に入るべきだったか?」といった焦燥感に駆られることもあるかもしれません。でも、その“テーマを決める時間”こそが、クライアントにとって大切なプロセスであることもあるのです。表面的な課題ではなく、クライアントが真に求めているもの、向き合うべき本質的なテーマが見つかるのは、多くの場合この導入部分にあります。目次1. セッションの時間配分は誰が決める?セッションの時間配分について、「テーマ設定に〇分、本編に〇分」といったように、コーチが一方的に厳密な枠を決めてしまうのは、コーチングの真髄からはかけ離れたアプローチと言えるでしょう。このようなやり方では、クライアントの自然な思考の流れや感情の動きを無視し、無理やりコーチが設定した時間枠に話を当てはめることになりかねません。コーチングは、単にアジェンダを確認し、予定通りに話を進めることを目的とするものではありません。 クライアントの変容を促すプロセスそのものに価値があります。たとえ90分という限られた時間枠があったとしても、その時間の使い方はコーチが一人で決めるものではなく、「クライアントと共に創造していく」ものです。コーチが陥りがちなのは、テーマ設定にかける時間を勝手に設定し、クライアントの話に心から集中できず、時間経過ばかりを気にしてしまうことです。テーマ設定に10分かかっても、あるいは15分、20分かかっても、何ら問題ありません。最も大切なのは、「今、このクライアントにとって何が最も必要なのか」を羅針盤として、セッション全体の進行を柔軟に構成していくことです。クライアントが安心して自身の内面と向き合える環境を提供することこそが、コーチの重要な役割なのです。2. テーマ設定に時間がかかることの“価値”クライアントが自分自身の内にある漠然とした思いや複雑な課題を、コーチとの対話を通じて丹念に言葉にしていく過程。このプロセスこそが、すでに深い内省を促し、新たな気づきを生み出す「セッションの一部」であると、私たちは強く認識しています。テーマ設定の最中に、「あれ、もしかしたら私が本当に話したかったのは、この表面的な問題ではなく、もっと奥にあるこのことかもしれない」と、クライアント自身がはっと気づく瞬間があります。この「ハッと気づく瞬間」こそが、セッションの質を飛躍的に高めるターニングポイントとなるのです。こうした自己発見は、セッションの後半で具体的なアクションプランを立てる前の、まさに「大切な地ならし」となります。焦ってテーマを曖昧なまま本編に進んでしまうと、セッション全体が「ぐらついた土台の上に立てられた建物」のように不安定になりがちです。明確でないテーマのもとで議論を進めても、期待するような深い洞察や具体的な行動変容には繋がりません。だからこそ、テーマはクライアントが心から納得するまで、そして曖昧さがなくなるまで、コーチとクライアントが二人三脚でじっくりと探求していく価値がそこにはあるのです。 この丁寧なプロセスが、セッションの確かな土台を築き、クライアントの深い変容を可能にします。3. テーマ設定が長引いたときのコーチの対応例とはいえ、現実としてセッションの時間には限りがあります。もしテーマ設定に想定よりも時間がかかりそうだ、と感じた場合、コーチが一人で判断を下すのではなく、クライアントに積極的に確認を促すことが重要です。これにより、セッションの主導権をクライアントと共有し、共に最適な方向性を見出すことができます。例えば、以下のように問いかけがあります。「このまま、この話題をさらに深掘りして“テーマ設定”として話を続けてみても大丈夫ですか?それとも、現時点で一旦テーマをある程度明確にしてから進めた方が、よいでしょうか?」「今、〇〇さんが感じていることを言葉にするのに、もう少し時間をかける必要がありそうですか?それとも、このあたりで一旦テーマを絞り込み、具体的に掘り下げていきたいですか?」このように問いかけることで、セッションの「主導権」をコーチとクライアントが対等に共有することができます。その上で、クライアントが「今日はこの話題の整理自体をテーマにしよう」と決めることも可能ですし、「まだ少し曖昧さはあるけれど、このまま進めてみて、セッションの中で見えてくるものに期待したい」という選択肢もあり得ます。クライアント自身が納得して選択することで、セッションへの主体的なコミットメントが促され、より効果的なコーチングに繋がります。4. まとめ|焦らないコーチングが、信頼と効果を生むコーチングの真の醍醐味は、決められた時間内に効率よくゴールにたどり着くことではありません。むしろ、クライアントの内なる変容を支える、丁寧で繊細なプロセスに心から寄り添うことにこそあります。テーマ設定に時間がかかるのは、決して非効率なことではありません。それは、クライアントが「今、この瞬間の自分自身と真剣に向き合っている証拠」なのです。そこにコーチが安心感をもって伴走し、焦らずにクライアントのペースを尊重することができれば、それだけで揺るぎない信頼関係は深く構築され、セッションは期待以上の確かな手応えをもって前進していくことでしょう。どうか、焦らなくて大丈夫です。セッションの時間の流れも、テーマの輪郭も、そしてクライアントの成長のペースも、すべては「クライアントと共に創っていくもの」なのです。当カレッジの次期ベーシッククラスの開講(2025年9月スタート)にあたり、プログラム詳細を案内する無料説明会も実施中です。説明会参加者様だけの受講費用1万円割引特典もご用意しています。お気軽にご参加いただければ幸いです。説明会はこちらからお申込みいただけます。監修者プロフィール中原阿里:ICF国際コーチング連盟プロフェッショナルサーティファイドコーチ(PCC)、弁護士、公認心理師、上級心理カウンセラー、ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ代表、CLARIS法律事務所代表弁護士、法務博士。奈良女子大学英文科英語英文学科卒業、関西学院大学大学院司法研究科修了、米国イェール大学Science of Well-Being Course修了。弁護士として活動しつつ、2019年ウェルビーイングのためのアカデミックなコーチングスクール「ラッセルウェルビーイングコーチングカレッジ」を設立。創立以来講師を務め多くのコーチを育成しながら、上場企業からNPO法人、大学、裁判所まで幅広い対象にコーチング研修を提供。現役の弁護士かつプロコーチとしても多数のクライアントを支援する。著書に「弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例 コーチングの基本と対応スキル」(日本加除出版)など。最終更新 2025年6月26日■関連記事・ICFコーチング資格の難易度比較|ACC・PCC・MCCの取得要件と実践のポイント・【2025年】国際コーチング資格取得について:特徴や選び方をまとめて解説・コーチングとは?効果や意味、メリット、学び方をプロコーチがくわしく解説・ー2025年版ー【プロコーチが選ぶ】コーチングの学びにおすすめ本7冊と効果的な学び方とは・【コーチングの質問とは?】質問の具体例をまとめた保存版リスト 避けるべきも紹介・コーチングの効果的な勉強法は?学び方やおすすめのスクールの選び方について■人気記事・【GROWモデルとは?】コーチングの質問の型とすぐに使える具体的な質問例もあわせて紹介・【コーチングの承認とは?】人の成長を促すスキルを3つの効果と注意点をあわせて紹介・コーチングの学びに自己理解が大切な理由とは?重要性と方法を解説