コーチングが最近日本で広まっています。コーチング界隈の者として、とてもいいことだと思います。今日はコーチングとは新しいメソッドであるという観点から、ウェルビーイングコーチングの学びがもたらすいろいろな効果について整理しました。1 コーチングと社会の関係そもそも,コーチングは人の可能性を引き出し前進を支援するかかわり方であり,本人に気づきをもたらしてエンパワーするものです。これが広まり,人と人のやりとりが,闘争逃走型から相互支援型に少しずつシフトしていけば,社会は豊かで協働的共創的でウェルビーイングになる,言い換えれば,社会基盤が強くなると考えられます。2 コーチングと法的紛争の関係 また,弁護士観点でいえば,コーチングの学びによって多くの人の対話の力が増えること,また,自己解決能力が高まることは,いずれも,紛争の予防にもなり,かつ,紛争が起きた時の当事者の解決能力の高さにもつながります。人というのはトラブルに弱く,意外と容易に冷静さを失い,時に視野が狭くなってしまいます。これは誰でも起きることでそれ自体悪いことではありません。むしろ自然な反応です。ただし,その状態では,合理的な解決や判断へ進むことが難しくなってしまいます。こんな時に,支援を求められた弁護士や対人支援職が行うことは,いわゆる正解を渡したり,アドバイスを一方的に押し付けることではありません。あくまでご本人が自分の納得した道を選ぶことが大事であり,専門的なアドバイスも,本人にとって価値あるものとしてしっかりと受け取られる前提の関係性を創ることが必要不可欠です。その前提を創るのに,コーチングのマインドやスキルは極めて有効です。苦しい状況で,時に不安や怒りに苛まれるクライアントに冷静さを取り戻してもらい,今ある状態を的確に把握し,望ましい良い状態(ウェルビーイングな状態)を再構築していく力を共に模索する。こうした関係性を築くには,コーチングのような,互いを信頼尊重し,ウェルビーイングを共に目指して対等なパートナーシップを築くコミュニケーションメソッドが,大きくものをいうと思われます。3 コーチングとウェルビーイングの関係ー自己決定権―ウェルビーイングの観点でも,コーチングはもはや重要な位置付けにあります。コーチングを学ぶということは,人が自分の葛藤に向き合って,自分の中にある選択肢を出し切って,その中から納得のいく未来を描き出す支援をする力を身に着けることになります。その意味で,コーチングとは本人の自己決定権を高める関りなのです。なお,自己決定の感覚は,ウェルビーイングの重要な要素です。世界幸福度ランキングでも,ウェルビーイングをはかる要素の中に,「自己決定感」が含まれています。このように自己決定の観点からも,コーチングはウェルビーイングに寄与することになると考えられています。コーチングって,実にたくさんの意味でウェルビーイングをつなぐ可能性を持ったメソッドなのですね。つまり,コーチングが広まっていくことは,個人的(わたし・あなたの)ウェルビーイングを高めることになり,それがどんどんつながることで,集合的(わたしたちの)ウェルビーイングへと広がっていくこと,これが,コーチングがもたらす社会へのウェルビーイングインパクトです。ウェルビーイングコーチングについて詳しく知りたい方は、こちらの記事「ウェルビーイングコーチングとは」に、わかりやすい説明がありますのでご覧ください。このコーチングを理解するにあたり,声を大にして言いたいことがあります。それは,コーチングは,一般的な(普段の)コミュニケーションとは,目的も手段も構造も「一つの独立したコミュニケーションメソッドである」こと。5 目的の違いまず、目的の違いについて考えてみましょう。普通の雑談や,指導面談,コーチングの目的は何でしょうか。普通の雑談の目的は「懇親」「交流」が一番ですね。相手のことをあまり知らない場合は,ざっくりと人となりを知ることで「安全の確認をする」(危ない人じゃないな)なども含まれす。指導面談の目的は,「相手の成長」「会社の目的達成」など決まった枠組みに基づきますし,クライアント自身の目的というよりは,その組織でクライアントが達成すべき目標として決められたものをテーマにして,いかにそこに早く上手く達成するかが中心となります。一方,コーチングの目的は「クライアントの望む状態・成長・前進へのコミット」です。指導面談と似ていますが,あくまで,クライアント自身がそれを望み,成長や前進の意欲がある場合に,クライアント自身の内側にある可能性や答えを引き出すことに主眼が置かれています。6 手段の違い手段もかなり違います。雑談の手段は,ざっくばらんな会話,双方が交代で主役となり,テーマ不要で自由に語ります。指導面談の手段は,主に,上から下への知見の伝達,指示命令,管理票を見ながらフィードバックを伝えていく,といった方法もあるかもしれません。主に話をするのは,上司のほうであり,面談される側は,話を聴いている時間の方が長い,なんてこともあり得るかも知れません。ここでは,ダメ出しをされることもあれば,褒められることもあるでしよう。ただ,いずれにしてもも,上司から部下への評価を伝える場になっていることが多く,本人は,聴いているだけ,という場面が多いように思われます。なお,指導面談がダメというわけではありません。ただ,「相手の成長」という目的なら,これだけでは足りません。一方的に何かを伝えるだけであれば,成長には,いずれ頭打ちが来ます。頭打ちがくると,本人も,組織も,いずれ行き詰まりを感じ,模索するようになります。ここでコーチングのニーズが大きく生まれます。個人の可能性を十分に引き出して,主体性や自律性を持った存在として輝いてほしいという願いに沿ったかかわり方がコーチングだからです。人を重要な資本としてとらえる人的資本経営の時代とも合致していますね。では,コーチングはどんな手法を使っているかというと,まず「指示命令」はしません。コーチングとはかけ離れたやり方が指示命令ですから,そうではなく質問、承認、フィードバックなどの本人の内側に光をあてる手法を用います。これらのスキルがしっかりできると,本人には気づきが生まれ自主性,自律性,さらには責任感が生まれていきます。これは,本人はもちろん,本人が所属するチームにも大きなインパクトをもたらし,ぐっと前進するのです。これはかなりスキルフルです(マインドも大事)。7 構造の違いコーチングと他のかかわりでは,「構造」も異なります。コーチングには,雑談や指導とは異なる固有のやりとりの構造があるという意味です。世の中に,コーチングっぽいやり取りはそれなりにあり得ます。例えば,相手の話を遮らずに聴く相手の意見をいったん受け止めるその意見の背景にはどんな事情があるのか聴いてみる本当はどうありたいのか,問いを立ててみるなど。ただし,本人の葛藤を整理し,気づきや主体性が生まれるという「コーチングという独立したメソッド」を完成させるには,その基盤とそれに沿った「コーチング独自の構造」の組み立てができる必要があります。さらに,それを,どんなクライアントでも,どんな内容でも,コーチング独自の構造を組み立てられるまでの経験学習が必要。これは,クライアントと共にいるコーチングの空間に何かが構築されていくような感じでもあって,まさに,新しい言語によって、思考に新しい空間が生まれるような感じに近いものがあります。これは,なかなかの創造的オシゴトだと思います。で,新しいメソッドである「コーチング独自の構造」を,実際に体得して再現すること。これはそう簡単ではなく、迷子になる人も多いものです。かくいう私自身も以前はそうでした。そこを何とか形にできないかと考え模索し、採用したのがこちら、当カレッジオリジナルのGRROOWWモデルです。8 GRROOWWモデルとはGRROOWWモデルとは、テーマ設定や現状確認、支障への向き合いなどをまとめたもので、質が高く再現性のあるコーチングの流れを型にまとめたメソッドです。ベーシック第2講座は,このGRROOWWモデルをがっつり学ぶカリキュラムです。ポイントは無数にありますが,とにかくテーマを明確に合意し、現状確認などのステージでクライアントの視点を「多角的」に広げること。問いで思考の「深度」↓「高度」⤴をあげることも重要。平坦なセッションは気づきが生まれにくいです。また,気づきの兆しがあったら,それをつかんで,広げて具現化していくキャッチ力と促進力も重要です。人の気づきは,瞬時に生まれてすぐに消えてしまい,その多くは形にならずに終わるからです。支障にも恐れず目を向けて,未来視点の思考の拡張や,現実的な最初の一歩も確実に踏んでいく流れをつくりだす,これらもコーチの大切な任務です。9 GRROOWWモデルを学んだ直後の受講生の声以下,第2講座受講直後のみなさんのお声にも,それに関する気づきや発見があふれています。受講前は,コーチングではなんとなくクライアントのモヤモヤを解決できればいいのだと思っていたが、毎回のセッションごとにテーマをしっかりと決めることの重要性に気付かされた。広げる,高める,深めるなど基本の質問の重要性や価値を感じた。テキスト例の質問でも十分なコーチングができると感じる現状について、多くの人はできることよりも「できないこと」に目が行く傾向があること,「できていること」に目を向ける価値に気づいた。現状確認や支障の整理で,「客観的な事実」に加え,本人の感情や,他者の目線を借りて客観視する行為も重要,様々な要素からその人の現状を深掘り・整理することが大切だと感じた。営業でもゴール設定は意識していたが、「課題を解消することがあなたのどんな意味になるのか?」などは聞いたことがなかった。テーマ設定の重要性を認識できた。コーチと営業職,アプローチは違うがとても学ぶものが多い。バディワークで,支障が自分の中にある幻影のような恐れだと気が付いて,とても楽になった。GRROOWWモデルで質問を構造化する体感でき,コーチングが少しずつ分かってきたのが嬉しい。気づきの深い皆さんのお声です✨。率直に学びや内面を共有する姿勢や,そこからの対話展開には私も目を見張る学びの空間があります。10 コーチングは実りのある学びコーチングの学びは、必ず、実りがあります。これまで自然と口にしていた「ひとこと」をコーチング的な「問い」に変えていく,これで相手の反応や関係性は必ず変わります。なぜなら,相手の反応はすべて,こちらのコミュニケーションの結果だからです。もちろん,自分自身も変わっていきます。コーチングの学びは,自分自身と,関わる人双方の可能性をグンと広げる変化の力を持っているのです。コーチングは「一つの独立したコミュニケーションメソッドである」。学べば,習得できます。それは,新しい言語を獲得するのと同じなのです。なお、コーチングの基本概念や、学ぶ意味やポイントについては、コーチングとは?コーチングの意味やポイント、学ぶ方法の記事で詳しく解説しています。最終更新日2024年7月23日